小規模宅地等の評価減(要件)の規定について
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)や故人と生活を共にする家族(同一生計親族)の事業用や居住用の宅地等について、一定の要件を満たした場合にその宅地等の評価額を減額することができるという規定です。
ここでは、小規模宅地等の特例を適用するための要件について説明いたします。各種の特例対象宅地等の要件は、それぞれ下記の通りです。
1.特定事業用宅地等
(1)特定事業用宅地等は、建物や構築物等がある事業用の宅地
特定事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のことです。特定事業用宅地等として特例を適用するためには、宅地等の上に建物や構築物等があることが必要です。
(2)不動産貸付業等は、事業の範囲外
不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業は事業から除かれます。準事業とは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいいます。
(3)税制改正により、原則として相続開始前3年以内の新たな事業は対象外
税制改正により平成31年4月1日以後の相続については、相続開始前3年以内の新たな事業の用に供された宅地等が特定事業用宅地等から除かれます。ただし、一定の規模以上の事業を行っていた場合は、特定事業用宅地等に該当することとなります。一定の規模以上の事業とは、次の算式を満たす事業をいいます。
〇一定の規模以上の事業となる割合
事業用資産のうち一定のものとは、その宅地等の上に存する建物、附属設備、構築物、所得税法上における事業用の減価償却資産等が該当します。
【例】
平成31年4月1日以後に新たな事業を開始し、3年以内に相続が発生
事業用減価償却資産の相続時の価額:300万円
事業用宅地等の相続時の価額:1,000万円
判定:300万円÷1,000万円=30%≧15%
∴一定の規模以上の事業であるため、特定事業用宅地等に該当
なお、平成31年4月1日から令和4年3月31日までの間に相続が発生した場合は、平成31年3月31日までに事業の用に供された宅地等に限り、相続開始前3年以内の新たな事業であっても特定事業用宅地等に該当するという経過措置が設けられています。
(4)個人の事業用資産についての相続税の納税猶予との併用は不可
特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受ける場合には、個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除の適用を受けることができないため、注意が必要です。
(5)日本郵便株式会社に貸し付けられている宅地等は、特定事業用宅地等に該当
日本郵便株式会社に貸し付けられている郵便局舎の敷地の用に供されている宅地等について、下記の要件を満たす場合は特定事業用宅地等に該当します。
①平成19年9月30日以前から被相続人又はその相続人が旧日本郵政公社との間の賃貸借契約に基づき郵便局の用に供するために貸し付けられていた一定の建物の敷地の用に供されていた宅地等であること。
②平成19年10月1日から相続の開始の直前までの間において、その賃貸借契約の契約事項に一定事項以外の事項の変更がない賃貸借契約に基づき、引き続き、郵便局舎の敷地の用に貸し付けられていた宅地等であること。
③その宅地等を取得した相続人から相続の開始の日以後5年以上その郵便局舎を日本郵便株式会社が引き続き借り受けることにより、その宅地等を同日以後5年以上郵便局舎の敷地の用に供する見込みであることについて総務大臣の証明がなされたものであること。
④郵便局舎の宅地等について、既にこの特例の規定の適用を受けていないこと。
(6)適用要件は、事業承継(継続)要件及び保有継続要件
特定事業用宅地等として、小規模宅地等の特例を適用するための要件は下記のとおりです。
①事業承継(継続)要件
事業承継要件とは、被相続人の親族が相続開始時から相続税の申告期限までの間にその宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその事業を営んでいることを指します。
事業継続要件とは、被相続人の同一生計親族であって、相続開始前から申告期限まで引き続きその宅地等を自己の事業の用に供していることを指します。
②保有継続要件
保有継続要件とは、相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地等を有することを指します。
2.特定居住用宅地等
(1)特定居住用宅地等は、自宅の敷地
特定居住用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(自宅)のことです。
(2)取得者は、配偶者・同居親族・同一生計親族・家なき子
被相続人の配偶者、同居親族、同一生計親族、一定の要件を満たす別居親族が取得した場合に、特例の適用対象となります。
(3)被相続人が養護老人ホーム等に入所している場合は、要介護認定等が必要
被相続人が老人ホーム等に入所していたため相続開始時において居住用に供してない宅地等であっても、下記の要件を満たす場合は特定居住用宅地等に該当します。
①被相続人が介護保険法に規定する要介護認定又は要支援認定等を受けていること。
②老人福祉法等に規定する老人ホームに入居していたこと。
③被相続人の居住の用に供されなくなった後に、事業用又は新たに被相続人等以外の人の居住の用に供されていないこと。
(4)被相続人の自宅が二世帯住宅である場合は、原則として区分所有登記がされていないことが必要
被相続人の自宅が二世帯住宅であっても、原則として特定居住用宅地等に該当します。ただし、区分所有登記がされている場合や別棟の建物であると認められる場合は、被相続人等の居住用に供していた部分に対応する宅地のみが、特定居住用宅地等に該当します。
例えば、二世帯住宅で1階部分は被相続人の名義、2階部分は相続人である子供の名義であり、それぞれ本人名義の階に居住している場合、原則として1階部分のみが被相続人の特定居住用宅地等に該当します。このとき、子供は同居親族とみなされません。
(5)適用要件は、居住継続要件、保有継続要件及び家なき子要件
特定居住用宅地等として、特例を適用するための要件は下記のとおりです。
①居住継続要件
居住継続要件とは、相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその自宅の建物に居住していることを指します。
②保有継続要件
保有継続要件とは、相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地等を有することを指します。
③家なき子要件
別居親族が被相続人の特定居住用宅地等を取得する場合は、小規模宅地等の適用要件として、持ち家がないこと(いわゆる家なき子であること)が要件となります。具体的には、下記の要件を満たす必要があります。
・居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。
・被相続人に配偶者がいないこと。
・相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人がいないこと。
・相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと。
・相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
なお、平成30年4月1日から令和2年3月31日までの間に相続が発生した場合は、平成30年3月31日において税制改正前の下記の要件を満たす宅地等(経過措置対象宅地等)があるときに限り、家なき子要件を満たすこととされています。
・居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。
・被相続人に配偶者がいないこと。
・相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人がいないこと。
・相続開始前3年以内に日本国内にある取得者又は取得者の配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと。
また、令和2年4月1日以後に相続が発生して経過措置対象宅地等を取得した場合において、同年3月31日においてその経過措置対象宅地等の上に存する建物の新築等の工事が行われており、かつ、その工事の完了前に相続が発生したときは、その相続税の申告期限までにその建物を自己の居住の用に供したときに限り、同居親族が特定居住用宅地等を取得したものとみなすこととされています。
小規模宅地等の特例については、下記の通り限度面積が定められています。最初に適正な申告をした場合は、特例の適用対象地の変更による更正の請求等は原則として認められていません。相続人間でのトラブルや税務署から相続人全員の同意を得られていないことを理由に特例の適用を否認されることを避けるためにも、特例の適用対象地及び選択は、事前にしっかりと確認の上、慎重に決める必要があります。
3.特定同族会社事業用宅地等
(1)特定同族会社事業用宅地等は、建物や構築物等がある特定同族会社の事業用の宅地
特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前から相続税の申告期限まで特定同族会社の事業の用に供されている宅地等のことです。特定同族会社事業用宅地等として特例を適用するためには、宅地等の上には建物や構築物等があることが必要です。なお、被相続人と特定同族会社との間における土地又は建物等の貸借につき、使用貸借である場合又は賃料の額が一般的な相場に比べて著しく低額である場合は、特定同族会社事業用宅地等に該当しません。
(2)特定同族会社は、親族で過半数の株式等を所有している場合の同族会社
特定同族会社とは、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人をいいます。
(3)不動産貸付業等は、事業の範囲外
不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業は事業から除かれます。
(4)適用要件は、法人役員要件及び保有継続要件
特定同族会社事業用宅地等として、小規模宅地等の特例を適用するための要件は下記のとおりです。
①法人役員要件
法人役員要件とは、申告期限においてその法人の法人税法上の役員であることを指します。
②保有継続要件
保有継続要件とは、相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地等を有することを指します。
4.特定同族会社事業用宅地等
(1)貸付事業用宅地等とは、建物や構築物等がある貸付事業用の宅地
貸付事業用宅地等とは、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等のことです。貸付事業用宅地等として特例を適用するためには、宅地等の上に建物や構築物等があることが必要です。
(2)不動産貸付業等が、貸付事業に該当
不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限ります。
(3)税制改正により、原則として相続開始前3年以内の新たな貸付事業は対象外
税制改正により平成30年4月1日以後の相続については、相続開始前3年以内の新たな貸付事業の用に供された宅地等は貸付事業用宅地等から除かれます。
ただし、被相続人等が相続開始日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていた場合は、貸付事業用宅地等に該当することとなります。特定貸付事業とは、貸付事業のうち準事業以外のものをいいます。また、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続が発生した場合は、平成30年3月31日までに貸付事業の用に供された宅地等に限り、相続開始前3年以内の新たな貸付事業であっても貸付事業用宅地等に該当するという経過措置が設けられています。
(4)適用要件は、事業承継(継続)要件及び保有継続要件
貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例を適用するための要件は下記のとおりです。
①事業承継(継続)要件
事業承継要件とは、被相続人の親族が相続開始時から相続税の申告期限までの間にその宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその貸付事業を行っていることを指します。事業継続要件とは、被相続人の同一生計親族であって、相続開始前から申告期限まで引き続きその宅地等を自己の貸付事業の用に供していることを指します。
②保有継続要件
保有継続要件とは、相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地等を有することを指します。
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本コラムで取り挙げた題材はあくまで一例であり、人それぞれ、宅地等の状況も様々で、適用可否の判断には難解な部分も多くあります。
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