貸付事業用宅地等の改正論点
平成30年度の税制改正において、小規模宅地等の特例における貸付事業用宅地等の要件につき改正が行われました。
この改正は、平成30年4月1日以後の相続等から適用されます。今回は、この改正がどのようなものなのか、具体的に解説します。
1.改正前は、相続開始時点で貸付事業用宅地等かを判断
貸付事業用宅地等とは、一定の要件を満たせば200㎡を限度として相続税評価額につき50%の減額ができる制度です。
改正前は、その宅地等がいつから貸付事業の用に供されているかは適用要件ではありませんでした。要は相続開始時点において、その宅地等が被相続人の貸付事業の用に供されていれば適用を受けることができたのです。
【例】
貸付事業用宅地等の地積:400㎡
貸付事業用宅地等の評価額:4,000万円
小規模宅地等の特例による減額:4,000万円×200㎡/400㎡×50%=1,000万円
特例適用後の貸付事業用宅地等の評価額:4,000万円-1,000万円=3,000万円
2.相続開始前3年以内の新たな貸付事業用宅地等には、小規模宅地等の特例を適用できない
(1)改正のあらまし
貸付事業用宅地等につき特例による減額が認められているのは、被相続人等の貸付事業を親族が承継・継続して、賃貸借人の生活を保護するという目的のためです。
しかしながら、相続開始の直前に貸付事業用宅地等を購入して特例を適用し、相続税の申告期限後に当該貸付事業用宅地等を売却するというような、相続税の節税目的で貸付事業用宅地等を利用するケースが問題視されていました。
このような節税目的による特例の適用を防ぐため、平成30年度の税制改正により貸付事業用宅地等の要件につき見直しが行われました。
(2)改正の内容
平成30年度の税制改正により、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等については、小規模宅地等の特例の適用対象外となりました。
これにより、相続開始の直前に貸付事業用宅地等を購入して、小規模宅地特例の適用により相続税を節税するという方法が利用できなくなることとなります。
この規定は、平成30年4月1日以後の相続から適用されます。
〇改正前の要件
貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限ります。)の用に供されていた宅地等をいいます。
〇改正後の要件
貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限ります。)の用に供されていた宅地等(その相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(「3年以内貸付宅地等」といいます。)を除きます。)をいいます。
- 貸付事業用宅地等の要件の改正
3.新たに貸付事業の用に供された宅地等に該当する場合としない場合
今回の改正により特例の適用対象外となった相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等についてですが、この「新たに貸付事業の用に供された」とは、下記の2つにより判定されることとなります。
(1)貸付事業の用以外の用に供されていた宅地等が貸付事業の用に供された場合
これは、例えば自宅を賃貸物件に変更した場合等が該当します。
- 自宅を賃貸物件に変更した場合
(2)宅地等若しくはその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の当該宅地等が貸付事業の用に供された場合
これは、例えば未利用であった更地の上に新たな賃貸物件を建築した場合等が該当します。
- 未利用であった更地の上に新たな賃貸物件を建築した場合
(3)新たに貸付事業の用に供されたときに該当しない場合
下記のような場合は、「新たに貸付事業の用に供されたとき」には該当しないこととなります。
①賃貸借契約等につき更新がされたとき
賃貸借の契約期間が満了後、同じ借主との契約を更新する場合は、新たな貸付事業には該当しません。
②建物等が一時的に賃貸されていなかったに過ぎないと認められるとき
例えば、継続的に賃貸されていた建物等につき賃借人が退去をした場合や建物の建替えが行われた場合において、その退去又は建替が完了後、速やかに新たな賃借人の募集を行って賃貸していたとき等が該当します。
このような場合には、空室が一時的なものであると認められるため、新たな貸付事業には該当しません。
なお、新たな賃借人が入居するまでの間に、当該建物等を貸付事業の用以外の用に供したとき等は、この限りではありません。
③相続により取得したとき
被相続人の貸付事業の用に供されている建物等を相続により取得した場合は、被相続人の事業を相続人が引き継ぐこととなるため、新たな貸付事業には該当しません。
また、貸付事業に供されていた期間についても、被相続人の事業期間を引き継いで算定します。
- 相続により取得した場合
4.経過措置として、改正前に要件を満たせば適用可能
経過措置として、平成30年3月31日より前に貸付事業の用に供された宅地等については、その3年以内に相続があっても適用対象となります。
ただし、この経過措置は貸付事業の用に供されていることが前提とされていますので、例えば、平成30年3月31日までに賃貸アパート等を取得しただけでは経過措置としての適用は認められません。実際に同日までに第三者に貸し付けていることが必要となります。
なお、経過措置を適用するために、平成30年3月31日までに貸付事業の用に供されていたことを証する書類の提出義務はありません。ただし、同日までに貸付けが実際に行われていることについて証する書類を税務署から求められる可能性があります。
経過措置を適用する場合は、所得税の確定申告に係る不動産所得用の「収支内訳書」や不動産の賃貸借契約書等の書類につき事前に確認しておくことが重要となります。
5.貸付事業が3年超事業的規模であれば、すべての貸付事業用宅地等に適用可能
今回の改正で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、貸付事業用宅地等の対象ではなくなりました。
ただし、例外措置として、その貸付事業が「事業的規模」に該当し、「事業的規模」の貸付事業を相続開始前3年超行っている場合には、その相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等についても、貸付事業用宅地等として特例の対象となります。
例えば、Aアパートを平成20年から事業的規模で貸し付けており、平成30年1月にBアパートを貸し付け、平成30年12月にCアパートをそれぞれ貸付事業の用に供しました。その後、平成31年2月に相続が発生したとします。
平成30年4月1日から令和3年3月31日までに相続が生じているため、平成30年4月1日以後の貸付けであるCアパートの敷地は貸付事業用宅地等の対象外となるはずですが、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付けを行っているため、Aアパートだけでなく、Bアパート、Cアパートの敷地を含め全てが貸付事業用宅地等として特例の適用対象となります。
なお、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付けを行う者が、相続開始前3年以内の新たな貸付けに小規模宅地の特例の適用をする場合、3年を超えて事業的規模であったことを明らかにする書類を相続税の申告の際に提出する必要があります。例えば、相続までの4年分の不動産所得用の収支内訳書等が該当します。
なお、相続で貸付事業を承継した場合、被相続人の事業的規模の期間を引き継ぐことができます。
例えば、生前に事業的規模の不動産賃貸業を3年超で営んでいた夫が亡くなったため、相続により妻が賃貸不動産を取得して不動産賃貸業を承継したとします。なお、妻は不動産賃貸業を過去に行ったことはないものとします。
相続後、妻は新たに賃貸不動産を購入し、貸付事業の用に供しました。その後、購入してから3年以内に妻が亡くなり、相続人である長男が賃貸不動産を取得して不動産賃貸業を承継しました。
この場合、妻が新たに購入した賃貸不動産は相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等に該当しますが、夫の事業的規模の期間を承継しているため、妻も事業的規模の不動産賃貸業を3年超で営んでいるものとされます。
そのため、妻が新たに購入した賃貸不動産についても、貸付事業用宅地等として特例を適用することが可能となります。
6.事業的規模とは「5棟10室基準」
事業的規模の貸付事業を、特定貸付事業といいます。
特定貸付事業に該当するかどうかの判定は、所得税の不動産所得における「5棟10室基準」に準じるとされています。5棟10室基準とは、所得税の不動産所得において、建物の貸付けが「事業的規模」に該当するか否かを判定する基準です。
所得税法基本通達26-9で下記のように定めています。
- 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
- 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
①サブリース契約の場合の判定基準
アパート等の貸付事業を行う際に不動産管理会社と結ぶサブリース契約については、オーナーが不動産管理会社等に建物を貸し付け、その不動産管理会社等が各入居者に貸し付けるという建物の“又貸し”であると考えられます。
この場合において、不動産業者への貸付けが「5棟10室基準」を満たすかどうかは、その建物全体の部屋数で判定します。
②共有物件の場合の判定基準
被相続人が貸付事業の用に供している建物の名義が親族と共有となっているケースも考えられます。
この場合において、その共有物件が「5棟10室基準」を満たすかどうかは、各自の持分ごとではなく、その建物全体の部屋数で判定します。
③駐車場の判定基準
月極駐車場を貸し付けている場合は、駐車スペース5台分を1室に換算して、「5棟10室基準」を満たすかどうかを判定します。例えば駐車スペースが50台である場合は、50台÷5台/室=10室と換算されますので、基準を満たすことになります。また、アパートの部屋数と月極駐車場の台数を組み合わせて判定することもできます。例えば、駐車スペース10台分とアパートの部屋が8室ある場合、駐車場10台÷5台/室=2室と換算されるため、アパート8室+駐車場2室=10室と判定されますので、基準を満たすことになります。
④コインパーキングの判定基準
コインパーキングに係る収入につき、所得税においては事業所得又は雑所得に該当するものとされています。事業の営利性や反復継続性等の有無により、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で当該貸付事業が行われている場合は、事業所得と判断されます。コインパーキングに係る収入が事業所得と判断されるときは、特定貸付事業に該当するものと考えられます。
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本コラムで取り挙げた題材はあくまで一例であり、人それぞれ、宅地等の状況も様々で、適用可否の判断には難解な部分も多くあります。
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