遺産が未分割である場合の相続税の計算
相続が発生した場合において被相続人が生前に遺言書を作成していないときは、相続人間で協議の上、被相続人の遺産分割を行います。
しかしながら相続人間での協議がまとまらず、相続税の申告期限(相続開始日から10ヶ月)までに遺産分割が確定しないことがあります。
その場合は、民法に規定されている相続分により計算された相続税額で未分割として申告し、後日、遺産の分割が確定した後に改めて修正申告をすることとなります。
1.遺産が未分割である場合の相続税の計算方法
相続又は包括遺贈により取得した財産に係る相続税について納税義務が生じる場合は、原則として申告期限までに申告及び納税を行う必要があります。
ただし、その相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって申告期限までにまだ分割されていない場合は、その分割されていない財産については各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従ってその財産を取得したものとして、相続税を計算するものとされています。
例えば、相続人が配偶者と子2名である場合において、遺産(総額1億円)の全てが未分割であるときは、下表のように相続税を計算することとなります。
【例】
相続人:配偶者、子A、子Bの3名
相続財産の価額:1億円(全て未分割)
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:1億円-4,800万円=5,200万円
- 法定相続分に応ずる各取得金額
- 税額按分
2.債務控除がある場合の相続税の計算方法
相続税の計算において、被相続人の債務・葬式費用等は相続財産から控除をすることができます。これを相続税における債務控除といいます。
債務控除ができる債務は、銀行からの借入金や公租公課の未払金等の相続発生日における確定債務となります。葬式費用等は被相続人の債務ではありませんが、社会通念上の観点から債務と同様に相続財産から控除することが認められています。
なお、葬式費用等については、お通夜・告別式の際に葬儀会社に支払った費用やお寺に支払ったお布施等が債務控除の対象となり、香典返戻費用、墓地や位牌等の購入費用、初七日や四十九日の法会に要する費用等については債務控除の対象とならないので、注意が必要です。
相続税の計算においては、実際に債務・葬儀費用等を負担した相続人等が自身の取得した相続財産から控除して課税価格を算定します。
しかしながら、相続人間において債務・葬儀費用等を負担する者が確定していない場合は、相続財産が未分割である場合と同様に、相続分又は包括遺贈の割合で負担したものとして計算することとなります。
なお、債務・葬式費用等については遺産分割の対象ではないものとされていますが、実務上では相続人間で相続財産の分割協議を行うと同時に負担する者を決めることが一般的です。
【例】
相続人:配偶者、子A、子Bの3名
相続財産の価額:1億3,000万円(全て未分割)
債務・葬式費用の額:3,000万円(負担者が未確定)
課税価格の合計額:1億3,000万円-3,000万円=1億円
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:1億円-4,800万円=5,200万円
- 法定相続分に応ずる各取得金額
- 税額按分
3.遺言書がある場合の相続税の計算方法
(1)包括遺贈の場合
包括遺贈とは、相続財産の割合を指定して包括的に遺贈する方法です。例えば、「遺言者の全財産をA及びBに対して、それぞれ1/2の割合で包括的に遺贈する。」というような内容の遺言が包括遺贈に該当します。
包括遺贈の場合は、誰がどの財産を取得するかの指定がされていないため、相続人及び包括受遺者の間で協議を行い、遺産分割を行う必要があります。もし協議が難航し、相続税の申告期限までに遺産の分割が確定しない場合は、未分割として相続税の申告をすることとなります。
(2)特定遺贈の場合
特定遺贈とは、特定の財産を指定しその遺産を受遺者に遺贈することです。例えば、「遺言者が所有する全ての不動産をAに、全ての金融資産をBに対して遺贈する。」というような内容の遺言が特定遺贈に該当します。
特定遺贈の場合は、遺産分割が確定したものとして相続税の申告を行います。仮に遺言書とは異なる内容で遺産分割協議を進めていたとしても、相続税の申告期限までに協議がまとまらない場合は、遺言書の内容に基づいて申告を行うこととなります。
(3)遺言書とは異なる遺産分割を行った場合
例えば特定の相続人に全ての遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なる遺産分割をしたときは、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたものと考えられます。
したがって、遺言書とは異なる内容の遺産分割を行った場合であっても、遺言書の内容ではなく実際に行われた遺産分割の内容に基づいて相続税を計算することとなります。なお、その場合は、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとはみなされず、贈与税の課税対象とはなりません。
ただし、一度行った遺産分割のやり直しをした場合は、原則として相続人間における贈与とみなされ、贈与税が課税されるおそれがあります。
4.みなし相続財産がある場合の相続税の計算方法
みなし相続財産とは、相続税法上、被相続人から相続等により取得したものとみなして相続税が課税される財産のことです。
みなし相続財産は受取人固有の財産であり、被相続人の本来の相続財産ではないことから遺産分割の対象とはなりませんが、相続税の計算においては相続財産と同様に相続税が課税されることとなります。
みなし相続財産の具体例としては、生命保険金等や死亡退職金等が挙げられます。また、被相続人が保険料や掛け金を支払っている相続人名義の生命保険契約や個人年金等も生命保険契約に関する権利や定期金に関する権利として課税されます。
みなし相続財産は遺産分割の対象ではないため、相続税の計算においては受取人等の相続財産に加算して申告します。なお、相続人が受け取る生命保険金等と死亡退職金等については、500万円×法定相続人数までの金額につき非課税枠が設けられており、他の相続財産が未分割であっても適用が可能です。
【例】
相続人:配偶者、子A、子Bの3名
相続財産の価額:8,000万円(全て未分割)
生命保険金等の金額:3,500万円(子Bが受取人)
非課税枠適用後の生命保険金等の金額:3,500万円-500万円×3人=2,000万円
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:8,000万円+2,000万円-4,800万円=5,200万円
- 法定相続分に応ずる各取得金額
- 税額按分
5.相続の放棄がある場合の相続税の計算方法
相続の放棄とは、被相続人の遺産の相続について相続人が放棄することをいいます。相続の放棄をするためには、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に申述する必要があります。民法上では、相続の放棄をした相続人は、被相続人の相続について初めから相続人でなかったものとみなします。
相続税の計算においては、相続の放棄がある場合はその相続の放棄がなかったものとした場合における法定相続人により基礎控除額及び相続税の総額を算定します。
【例】
相続人:配偶者、子A、子Bの3名
相続の放棄:子B
相続財産の価額:1億円(全て未分割)
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:1億円-4,800万円=5,200万円
- 法定相続分に応ずる各取得金額
- 税額按分
6.相続時精算課税適用財産が特別受益である場合の相続税の計算方法
相続人が、被相続人から婚姻、養子縁組、生計の資本のための贈与を生前に受けている場合、その贈与を受けた利益のことを特別受益といいます。
特別受益者の相続分は、民法第903条において定められています。
具体的には、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、相続分の中からその贈与の価額を控除した残額が特別受益者の相続分となります。
相続財産が未分割である場合は、特別受益である相続時精算課税適用財産についても民法の規定に応じて相続税額の計算を行います。
【例】
相続人:配偶者、子A、子Bの3名
相続時精算課税適用者:子B
相続時精算課税適用財産:1,000万円(特別受益)
相続財産の価額:9,000万円(全て未分割)
基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
課税遺産総額:(9,000万円+1,000万円)-4,800万円=5,200万円
- 法定相続分に応ずる各取得金額
- 税額按分
相続税申告についてお悩みの方は、ぜひ朝日中央の税理士にご相談ください。
本コラムで取り挙げた題材はあくまで一例であり、個々の事例につき適切な判断をするためには、専門的な知識や経験が必要となります。
相続税申告や相続問題でお困りの際は、お気軽に相続税に強い税理士法人朝日中央綜合事務所へお問合せください。
弊所は、朝日中央グループの一員であり、法律・税務・信託(遺産整理・遺言作成、執行)とワンストップサービスを提供しています!