連帯納付義務
相続税や贈与税には連帯納付義務というものがあります。
連帯納付義務とは、他人が納めていない税金につき、代わりに納めなければならない、というように他人の納付義務につき連帯責任を負わされる制度です。
相続税や贈与税は、自分に課せられた相続税又は贈与税の納付義務を負う事を原則としていますが、納付義務を限定してしまうと、税収の漏れが生じてしまう可能性があります。
それは租税債権の確保の上で適当でないことから、租税債権確保のためにこのような規定が設けられています。今回は、この連帯納付義務について解説します。
1.相続税の連帯納付義務により、他人の納税義務を負わされる
相続又は遺贈によって財産を取得した人のうち、誰か1人でも相続税を納付しなければ、他の相続人に「相続税を払うように」と税務署から通知がきます。
例えば、父、母、長男、長女の4人家族がいました。父が亡くなると、母と長男、長女が相続人に該当します。
遺産分割協議の結果、母は不動産を取得し、長男と長女は現預金を1/2ずつ相続することになりました。
母と長女は申告期限内に相続税を納めましたが、長男は相続税を納めることなく、ほったらかしにしていました。
すると、ある日突然、母と長女のもとに税務署から通知が来ます。
これが連帯納付義務です。
母と長女は、自分が取得した財産の割合に応じて、長男の支払うべき相続税を代わりに納付しなければなりません。
相続税法34条では以下のように定めています。
同一の被相続人から相続又は遺贈(相続時精算課税の規定の適用を受ける財産に係る贈与を含む。)により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる。
ただし、平成24年4月1日以後に申告期限が到来する相続税については、次の場合には連帯納付義務を負いません。
- 申告期限から5年を経過する日までに、税務署長が連絡納付義務者に対して連絡納付に係る納付通知書を発していない場合
- 本来の納税義務者が延納の許可を受けた相続税額に係る相続税
- 本来の納税義務者が納税猶予(農地等、山林、非上場株式等)の適用を受けた場合の納税が猶予された相続税額にかかる相続税
なお、相続税については納付が困難である場合に納税者の申請により年賦で納付することができる延納という制度がありますが、連帯納付義務者における相続税の支払いについては延納を適用することができません。
2.税務署から連帯納付の通知等が、連帯納付義務者に送られる
連帯納付義務については相続人等が十分に認識しておらず、また、他の相続人等が納付しているかどうか状況がわからないことから連帯納付義務者にとっては突然納付を求められることがある等の問題がありました。
平成23年度にこの問題を少しでも緩和するために、納付通知書を受け取る前に連帯納付義務の履行を求める場合の手続き規定として、連帯納付義務者に連帯納付の通知、滞納発生の通知がなされるようになりました。
(1)連帯納付の通知
税務署長は、本来の納付義務者が納付すべき相続税額のうち延納又は物納の申請を行ったものがある場合には、その相続税に係る連帯納付義務者に対し、相続税の連帯納付義務に係る規定の適当がある旨を通知すること。
(2)滞納発生の通知
税務署長又は国税局長は、本来の納付義務者に対し相続税の督促をした場合において、その督促状を発した日から1月を経過する日までにその相続税が完納されないときは、連帯納付義務者に対し、次の事項を通知すること。
①その相続税が完納されていない旨
②連帯納付義務の適用がある旨
③その相続税に係る被相続人の氏名、その他必要な事項
3.本来の納税義務者は延滞税、連帯納付義務者は利子税が課される
連帯納付義務がある他の相続人が相続税を負担する場合は、延滞税が発生している可能性が高いです。
平成23年の税制改正において、この延滞税に関して見直しがされました。平成23年4月1日以後の期間に対応する延滞税については、連帯納付義務者の負担する額は延滞税に変わって利子税が適用されます。
利子税の税率は、平成30年1月1日以降は原則として年1.6%で計算されます。それに対して延滞税の税率は、平成30年1月1日以降は原則として年8.9%で計算されます。延滞税は罰金としての意味合いが強いことから、利子税よりも高い率により計算されることとなります。
利子税は、相続税の納付期限の翌日から起算し、納付基準日(連帯納付義務者に納付通知書が発送された日の翌日から2か月を経過する日又は督促状が発送された日のいずれか早い日)又は相続税を完納する日のどちらか早い日までの期間で計算されます。
ただし、利子税が適用されるのは連帯納付義務者であるため、本来の納税義務者は延滞税を納める必要があります。連帯納付義務者が利子税を納めた場合、延滞税と利子税の差額を本来の納税義務者が納めることとなります。
4.連帯納付義務における注意点
(1)連帯納付義務者が相続税を代わりに支払った場合は、贈与税課税のおそれ
連帯納付義務者が本来の納税義務者の相続税を代わりに支払った場合、その支払った金額は本来の納税義務者に対する求償権となります。
この場合において、連帯納付義務者が求償権を放棄したときや明らかに求償権を行使しないと認められるときには、本来の納税義務者に対する贈与とみなされ、贈与税が課税されるおそれがあります。
ただし、本来の納税義務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である等の場合には贈与とはみなされません。
(2)家庭裁判所へ申立てをして相続放棄をした場合は、連帯納付義務はない
相続発生から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをすることで、相続放棄をすることができます。
相続放棄をした場合は、相続人でなくなるため相続税の連帯納付義務は負いません。
ただし、家庭裁判所への申立てによらず、遺産分割協議における相続分の放棄や譲渡の場合は、民法上の相続放棄ではないため、相続税の連帯納付義務を負うこととなります。
(3)相続税を支払わない場合は、財産を差し押さえられるおそれ
税務署より督促を受けたにも関わらず、本来の納税義務者及び連帯納付義務者が相続税を支払わない場合は、税務署は財産の差し押さえの手続きを行います。
実務上は、本来の納税義務者の財産から差し押さえをすることがほとんどですが、例えば本来の納税義務者に差し押さえができる財産がない場合や不動産等の換価が難しい財産しかない場合など、税務署の判断により連帯納付義務者の財産を優先する可能性もあります。
5.連帯納付義務が発生するケース
(1)被相続人が未納の相続税又は贈与税は、相続人が連帯納付義務を負う
被相続人から相続等により財産を取得した場合は、その被相続人が未納の相続税又は贈与税について、連帯納付責任があります。
相続税法34条では以下のように定めています。
同一の被相続人から相続又は遺贈(相続時精算課税の規定の適用を受ける財産に係る贈与を含む。)により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる。
例えば、父、母、長女、長男の4人家族がいました。
父が先になくなり、その後母が亡くなります。
父の死亡に係る相続税を未納のまま、父の相続人である母が死亡した場合は、母の相続人(長女と長男)は父の死亡に係る相続税について連帯納付義務があるということです。
(2)相続財産等が贈与等された場合は、未納の相続税は受贈者が連帯納付義務を負う
相続等により取得した財産が贈与等によって移転された場合には、その贈与等により財産を取得した人は、その財産に対する贈与者が未納の相続税等について、連帯納付責任があります。
相続税法34条では以下のように定めています。
相続税又は贈与税の課税価格計算の基礎となった財産につき贈与、遺贈若しくは寄附行為による移転があった場合においては、当該贈与若しくは遺贈により財産を取得した者又は当該寄附行為により設立された法人は、当該贈与、遺贈若しくは寄附行為をした者の当該財産を課税価格計算の基礎に算入した相続税額に当該財産の価額が当該相続税の課税価格に算入された財産の価額のうちに占める割合を乗じて算出した金額に相当する相続税又は当該財産を課税価格計算の基礎に算入した年分の贈与税額に当該財産の価額が当該贈与税の課税価格に算入された財産の価額のうちに占める割合を乗じて算出した金額に相当する贈与税について、その受けた利益の価額に相当する金額を限度として、連帯納付の責めに任ずる。
例えば、父、母、長女、長男の4人家族がいました。
父が先になくなり、父の財産を全て母が相続します。
母は相続税が課税されましたが、相続税につき未納です。
父の死亡に係る相続税を未納のまま、相続人である母が長女にその相続財産を贈与した場合は、長女は父の死亡に係る相続税について連帯納付義務があるということです。
(3)未納の贈与税は、贈与税が連帯納付義務を負う
財産を贈与した場合には、その財産を贈与した人は、その財産をあげた人の贈与税について、連帯納付責任があります。
相続税法34条では以下のように定めています。
財産を贈与した者は、当該贈与により財産を取得した者の当該財産を取得した年分の贈与税額に当該財産の価額が当該贈与税の課税価格に算入された財産の価額のうちに占める割合を乗じて算出した金額として政令で定める金額に相当する贈与税について、当該財産の価額に相当する金額を限度として、連帯納付の責めに任ずる。
例えば、父、母、長女、長男の4人家族がいました。
母は自分の財産を長女に贈与しました。
長女は贈与税が課税されましたが、その贈与税につき未納です。
贈与者である母は、長女の贈与税について連帯納付義務があるということです。
もし1年間を通じてそれ以外に贈与がないとすれば、母は長女が納付すべき贈与税の全額について連帯納付義務を負います。
6.連帯納付義務への対策方法
(1)相続人間で相続税の納税を相互に確認
相続人間で各人が相続税を納付しているかを相互に確認することで、連帯納付義務を負うリスクを減らすことができます。相続税の納付が行われていない場合、いつまでに納付できるか、納付が困難な場合は立て替えを行う方が良いか、延納や納税猶予等の特例を適用するかなどを検討することも重要です。
(2)遺産分割の際に各相続人の納税資金を確保
遺産分割の際は、相続税も考慮したうえで金融資産の取得割合を決めることが重要となります。特に不動産を取得する相続人は、公平性の観点から金融資産の取得割合が小さくなることが多いため、後々のトラブルを事前に回避するためにも最低限の納税資金を確保することが必要となります。
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本コラムで取り挙げた題材はあくまで一例であり、個々の事例につき適切な判断をするためには、専門的な知識や経験が必要となります。
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