相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、相続税と贈与税を一体化した課税方式であり、主に財産の世代間移転を円滑に進めることを趣旨として作られた制度です。
この制度を利用して贈与すると、2,500万円までは贈与税が課税されないこととなります。
1.相続時精算課税制度は、累計2,500万円まで贈与税が課税されない制度
相続時精算課税制度を選択していない場合の贈与(暦年課税贈与)では贈与財産の価額から年間110万円の基礎控除額が控除されますが、この制度を適用した場合の贈与では贈与財産の価額から累計で2,500万円に達するまでの特別控除額が控除されます。つまり、2,500万円までは贈与税が課税されません。なお、2,500万円を超えた部分の金額については、一律20%の税率で贈与税が課税されます。
この制度の適用を受けた贈与者について相続が発生した際の相続税の計算に当たっては、この制度の適用を受けた全ての贈与財産の贈与時における価額を、相続税の課税価格に含める必要があります。また、この制度の適用を受けて既に納付した贈与税額については、その相続税の計算において控除することができます。この際、贈与税額が相続税額より大きく控除しきれない場合には、控除しきれない部分の金額が還付されます。
この制度を選択するためには、財産の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択届出書等の一定の書類を添付して贈与税の申告書を提出する必要があります。
【例】
特定贈与者:父(被相続人)
受贈者:長女(相続人)
精算課税贈与財産:1年目2,000万円、2年目2,000万円
父の相続時の財産:6,000万円
相続税の算出税額:1,220万円(精算課税適用財産加算後)
- 贈与税の計算
- 相続税の計算
2.適用要件
相続時精算課税制度を適用するためには、下記の要件を満たす必要があります。
(1)贈与者
贈与をした年の1月1日時点で60歳以上である直系尊属(父母や祖父母等)が対象となります。相続時精算課税制度における贈与者を「特定贈与者」といいます。
(2)受贈者
贈与者の推定相続人で、かつ、直系卑属である者のうち贈与を受けた年の1月1日において20歳以上である人が対象となります。なお、「推定相続人で、かつ、直系卑属である者」とは、例えば親からみた子(親が死亡した場合に相続人となる子。子が死亡している場合には、代襲相続人となる孫等)です。
(3)手続き
①初年度
財産の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、受贈者の納税地の所轄税務署長に対して、「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。また、この届出書には、下記の書類を添付する必要があります。
- 受贈者の戸籍の謄本
- 受贈者の戸籍の附票の写し
- 贈与者の住民票の写し等
なお、相続時精算課税制度選択届出書は、一度提出すると撤回することができません。そのため、2年目以降は提出が不要となります。
②2年目以降
特定贈与者から財産の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告が必要です。2年目以降の特別控除額は、2,500万円から前年度までにすでに適用した金額を控除した残額となります。
なお、申告期限までに贈与税申告をしなかった場合は、累計で2,500万円の特別控除が使えず、20%の贈与税が課税されることとなります。また、加算税や延滞税等が課税されるおそれがあります。
③相続時
特定贈与者の相続が発生した場合は、特定贈与者の相続財産の価額に相続時精算課税適用財産の贈与時における価額を加算した合計額により相続税の算定を行います。加算した後の相続財産の合計額が基礎控除額以下である等の場合には、相続税申告は原則として不要となりますが、相続時精算課税に係る贈与税につき還付を受けるためには相続税申告を行う必要があります。
なお、相続時精算課税適用者がいる場合は、相続税申告書に下記の書類(相続開始日以後に作成されたもの)を添付する必要があります。
- 被相続人の戸籍の附票の写し
- 相続時精算課税適用者の戸籍の附票の写し
④相続時精算課税選択届出書を提出する前に死亡した場合
相続時精算課税制度は、この制度を適用する前に受贈者が死亡した場合でも適用が可能です。受贈者が相続時精算課税の適用要件を満たしており、その贈与を受けた年の翌年の3月15日以前に死亡した場合は、相続人が代わりに書類を提出する必要があります。
相続人は、その受贈者が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して、その受贈者の納税地の所轄税務署に提出します。これにより、その贈与を受けた財産について相続時精算課税の適用を受けることができます。なお、この届出書には、次の書類を添付しなければなりません。
- 相続時精算課税選択届出書付表
- 受贈者の全ての相続人を明らかにする書類
- 受贈者の戸籍の謄本
- 贈与者の住民票の写し等
ただし、相続人が2人以上いる場合には、相続人全員が「相続時精算課税選択届出書付表」に連署しなければ、相続時精算課税の適用を受けることはできません。
3.贈与者が60歳未満である場合でも適用可能な相続時精算課税選択の特例
令和3年12月31日までに、父母又は祖父母からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築等の対価に充てるための金銭を取得した場合で、一定の要件を満たすときには、贈与者がその贈与の年の1月1日において60歳未満であっても相続時精算課税を選択することができます。
なお、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の特例」の適用を受ける場合には、同特例適用後の住宅取得等資金について贈与税の課税価格に算入される住宅取得等資金がある場合に限り、この特例の適用があります。
(1)受贈者の要件
- 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であること。
- 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。
- 自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋の取得をしたものではないこと
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
- 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること又は同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
(2)住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の要件
- 新築又は取得の場合は、新築又は取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が50平方メートル以上で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであることその他一定の要件を満たすものであること。
- 増改築等の場合は、増改築等後の住宅用の家屋の登記簿上の床面積が50平方メートル以上で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであることその他一定の要件を満たすものであること。
(3)適用手続
相続時精算課税選択の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に、相続時精算課税選択届出書、登記事項証明書など一定の書類を添付して、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。
4.相続時精算課税制度のメリット
(1)多額の財産を贈与しても税金の負担が小さい
相続時精算課税制度の最も大きな特徴は、累計2,500万円までの贈与につき税金が課税されないことです。また、贈与財産が累計2,500万円を超えた場合であっても、相続時精算課税の税率は一律20%であるため、最高税率が55%である暦年課税よりも税負担を抑えることが可能です。
例えば、贈与者の相続財産が基礎控除以下となり相続税は課税されない見込みであっても、暦年課税により生前贈与してしまうと贈与税が課税されてしまう場合があります。しかしながら、この制度を利用すれば、税金の負担をかけずに贈与者の相続財産を早期に相続人等へ承継させることが可能となります。
(2)生前の贈与により、将来の相続争いへの対策となる
不動産や非上場株式などの遺産分割が難しい財産の場合は、相続時に相続人間で争いになる可能性があります。そのため生前に相続時精算課税を適用して特定の者に贈与することで、税負担をかけずに紛争のリスクを軽減させることができます。
(3)将来の価値の増加が見込める財産については、節税対策となる
相続税は、相続財産を相続時の時価で評価して算定されます。しかし、相続時精算課税により贈与された財産は、贈与時の時価により評価された金額を相続財産に加算します。そのため、贈与時から相続時までの間に価値が増額した場合、その増額分につき節税効果が見込めることとなります。具体的には、地価の上昇が見込める土地や今後の利益の増額が予想される会社の株式などが該当します。
(4)収益物件を贈与することで、相続財産の増加を抑える
収益物件から生じる利益は、その収益物件の所有者に帰属します。そのため収益物件を生前に贈与することで、本来であれば贈与者に帰属する収益を受贈者に帰属させることができ、かつ、贈与者の相続財産の増加を抑えることが可能となります。
このように、相続時精算課税を適用することで、税負担をかけずに節税対策を行うことができます。
5.相続時精算課税制度のデメリット
(1)将来の価値が減少した場合、相続税額の負担が増える
上記4.(3)とは逆に、結果として贈与時から相続時までの間に評価額が低下した財産については、この制度の適用により税金面でかえって不利になることがあります。
(2)一度適用すると撤回ができない
この制度を一度適用したら、特定贈与者からの贈与について暦年課税により贈与税の計算を行うことができません。そのため、毎年110万円までの基礎控除や相続税の税率よりも低い贈与税の税率を利用するというような、生前贈与による節税対策を利用できなくなります。
なお、相続時精算課税制度の適用を受けない他の者からの贈与については、暦年課税贈与により贈与税の計算を行うこととなります。
(3)物納や小規模宅地等の特例が適用できない
この制度を適用して贈与した財産は、物納を適用することができません。また、土地を贈与した場合、その土地については小規模宅地等の特例の適用を受けることができなくなります。そのため自宅や収益物件を贈与する場合は、相続税の特例との兼ね合いを検討する必要があります。
(4)相続よりもコストがかかる可能性がある
不動産を相続により取得した場合は、不動産取得税は課税されず登録免許税も0.4%となりますが、不動産を贈与により取得した場合は、不動産取得税が課税され登録免許税も2.0%となるため、費用負担が増加します。
(5)贈与税申告の手間がかかる
この制度を適用する場合は、相続時精算課税選択届出書及びその他一定の書類の提出が必要となります。また、この制度を適用した後は、贈与財産の金額に関係なく特定贈与者からの贈与について贈与税の申告が必要となるため、手間がかかります。
(6)法改正がある場合、不利になる可能性がある
この制度を適用した場合、贈与を実施してから実際に相続が発生するまでの期間が長期に及ぶ可能性があります。そのため、相続が発生するまでの間に法改正が行われたときは、現行制度よりも不利になるおそれがあります。
例えば、法改正により相続税の基礎控除額が下げられるようなことがあれば、現行制度では相続財産が基礎控除額以下の見込みであっても、将来的には相続税が発生する可能性があります。
相続時精算課税制度の選択を検討する場合は、ぜひ朝日中央の税理士にご相談ください。
相続時精算課税制度を利用することが得になるのか否かを判断することは非常に難しいと言えます。利用しようかお悩みの方は、相続税に強い税理士と相談のうえ判断することをお勧めします。
相続税申告や相続問題でお困りの際は、お気軽に相続税に強い税理士法人朝日中央綜合事務所へお問合せください。
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