相続人に認知症の方がいる場合
1.遺産分割協議について
相続人に認知症の方がいて、意思能力がなかった場合には、そのままでは遺産分割協議を行うことができません。
裁判所に申立てを行い、成年後見人を選んでもらう必要があり、その成年後見人が遺産分割協議に参加することになります。
裁判所に申立てを行う際に、親族を候補者として記載することもできますが、その親族が選ばれる保証はなく、第三者の専門家(弁護士や司法書士等)が選ばれてしまうこともあります。
2.二次相続を考慮した遺産分割ができない
成年後見人は、その認知症の方の財産の保護を優先しなくてはならず、裁判所の監督下におかれ、裁判所へ報告する義務もあります。
そのため、成年後見人に親族が選ばれても、第三者が選ばれても、法定相続分を下回るような形で遺産分割協議をすることはできないこととなります。
通常のご相続時におきましては、一次相続、二次相続での相続税を考慮して、遺産分割内容を考えることが多いかと思います。
二次相続での相続税が多額になると見込まれる場合であっても、配偶者が認知症であった時は、あまり配偶者には財産を渡さないようにして二次相続税を少なくしようといったことができなくなってしまいます。
3.事前の対策
上記の通り、申し立てを行わなくてはならなくなったり、税金を考慮した遺産分割ができなくなったりする可能性があるため、事前に遺言書の作成をすることをお勧めいたします。
遺言書がある場合、遺産分割協議なしで相続手続きを進めることができますので、労力や支出を抑えることができます。
遺言書は意思能力がある場合にのみ作成が可能となります。
そのため、意思能力がなくなってしまったあとでは、遺言書を作成することはできなくなってしまいます。
4.相続税の納税義務
認知症であっても、相続税の納税義務が免除されることはありません。
認知症でない場合と同様に納税義務があるかどうかを判断していくことになります。
5.障害者控除の適用について
成年被後見人の相続税における障害者控除の適用については、平成26年3月14日に税務署に事前照会が出されており、成年被後見人は、障害者控除の対象となる特別障害者に該当すると解してよいと回答されています。
そのため、成年被後見人であり、その他の要件を満たす場合は、20万円にその成年被後見人がその相続開始時から85歳に達するまでの年数(1年未満は切り上げて1年とする)を乗じて算出した金額を、その方の相続税から控除することができます。
6.相続税の申告書の提出期限、相続税の納付の期限について
相続税の申告書の提出、相続税の納付については、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内にしなくてはならないとされています。
例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。
なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限となります。
では「相続の開始があったことを知った日」について、認知症のかたがいる場合はいつになるのでしょうか。
相続税法基本通達27-4に以下の記載があります。
相続税法基本通達27-4 「相続の開始があったことを知った日」の意義
相続税法第27条第1項及び第2項に規定する「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうのであるが、次に掲げる者については、次に掲げる日をいうものとして取り扱うものとする。 (略) (7) 相続開始の事実を知ることのできる弁識能力がない幼児等 法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日(相続開始の時に法定代理人がないときは、後見人の選任された日) (略) |
そのため、相続開始後に裁判所に申立てを行った場合は、後見人の選任された日が相続の開始があったことを知った日となり、その日の翌日から10か月以内に相続税の申告書の提出と、相続税の納付をしなくてはならないことになります。