行方不明の相続人がいる場合
1.行方不明者がいる場合の遺産分割
相続の手続上、一部の相続人だけで遺産分割協議を行い調印したとしても、その遺産分割協議書は認められません。
遺産分割協議は、あくまでも相続人全員の同意が必要となります。
そのため、まずは亡くなられた方(被相続人)の相続人を確定させるために、戸籍の収集を行っていく必要があります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍の収集を行い、配偶者や子供の有無を確認したところ、子孫がいなく、被相続人の両親も死亡していることが判明した場合、兄弟姉妹やおいめいが相続人になります。
このような家族関係の場合であれば、「?」のかたの生存を確認していく必要があります。さらに、死亡していた場合には子供がいないかも確認していく必要があります。
兄弟姉妹やおいめいが相続人となる場合、疎遠になってしまっていて、誰が生存しているか、誰が亡くなっているか、どこに住んでいるかが分からない場合もあるかと思います。
そのため、兄弟姉妹やおいめいの最新の戸籍を収集し、生存していると思われる方を確定していき、合わせて戸籍の附票を収集することで住所を調べることができます。
そこで判明した住所に手紙を送ったり、直接訪問したりして遺産分割協議を行ってくれるよう働きかけていくことになります。
ここまで調査を行った結果、その住所にその相続人がおらず、その後の行方が分からない場合には、その行方不明の相続人を、「不在者」として、「不在者財産管理人の選任」 または 「失踪宣告」 という手続きを行う必要があります。
不在者財産管理人の選任及び失踪宣告は、いずれも相続人が行方不明の時に執る手続きですが、法的な効果には大きな違いがあります。
2.不在者財産管理人の選任
不在者財産管理人とは、不在者が所有する財産を、不在者にかわって管理・保存するための人で、不在者が生存していることを前提として、家庭裁判所の権限外許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割協議に参加したり、不動産の売却等をしたりすることができます。
不在者管理人の選任には、不在者の従来の住所地又は居所地の管轄の家庭裁判所に、不在者財産管理人選任の申立を行う必要があります。
行方不明者が生存していることを前提としているため、行方不明者の所在不明の期間にかかわらず、音信不通で行方不明になっているような場合にこの手続きを行います。
申し立てについては、誰でも行うことができるわけではなく、行方不明者がいることによって相続手続きが進められない相続人など、一定の利害関係のある人に限られます。
手続きにかかる期間は、家庭裁判所に申立をしてから数か月ほど時間を要します。
法定相続人は、遺産分割協議をする際に、利益相反行為となってしまうため、不在者財産管理人にはなれません。
相続人ではない親族を候補者として推薦することはできますが、家庭裁判所により第三者である弁護士、司法書士等を選任されてしまう場合もあります。
3.権限外行為許可
注意しなければならないのは、不在者財産管理人の申立てはあくまでも不在者の財産管理を行う権利を得るために行うもので、遺産分割協議に参加する権利は含まれません。
遺産分割協議に参加する権利を得るためには、別途「権限外行為許可」を裁判所に申請し、許可を得る必要があります。
4.相続税申告
不在者財産管理人は、権限外行為許可を得て分割協議を行い、財産を取得した結果、相続税申告書の提出義務があることとなった場合、不在者の代理人として提出することができると考えられます。
5.事前の対策
不在者財産管理人が選任された場合、不在者が法定相続分以上の財産を取得するという協議内容でない限り、裁判所の許可がおりないと考えられます。
上記のように、疎遠になっている、もしくは会ったこともない兄弟姉妹がいるかもしれないような家族関係な場合は、遺言書を作成しておくことをお勧めいたします。
上記の例で遺言書があった場合、不在者管理人の選任をすることなく、相続手続きも、相続税申告書の提出もすることができます。さらに「?」のかたから遺留分減殺請求をされることもありません。
6.失踪宣告
失踪宣告とは、法律上その者を死亡したものとみなす制度です。
不在者につき、生死が7年以上不明の場合(普通失踪)、または、戦争、船舶の沈没、火災・震災など死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後、その生死が1年間明らかでない場合(危難失踪)に、家庭裁判所は申し立てにより失踪宣告をすることができます。
失踪宣告があると、不在者は死亡したものとみなされるので、婚姻関係は解消し、相続が開始し、死亡保険金の受取りなど死亡した場合と同じ取扱いを受けることになります。
失踪宣告も不在者財産管理人選任の申立て同様、不在者の従来の住所地又は居所地の管轄の家庭裁判所に失踪宣告を申立てることにより行われます。
通常、行方不明者に子供がいればその子供が相続人となるため、行方不明者の子供も遺産分割協議に参加し遺産を分割する必要があります(代襲相続)。
後になって失踪宣告を受けた人の生存が確認された場合には、失踪宣告を取り消すことが出来ます。
失踪宣告を取り消した場合でも、その失踪宣告を受けた人の財産について既に遺産分割が行われていた場合にはその分割は有効とされますが、相続財産を受け取った相続人は失踪宣告の取消しがされた時点で手元に残っている財産がある場合には本人に返還しなければいけません。
取消がされた時点までに使用した金銭や、すでに売却してしまった不動産などについては返還する必要はありません。
7.手続き方法の選択
「不在者財産管理人の選任」と「失踪宣告」の2つの方法の選択についてはどのように行えばよいのでしょうか?
それは、行方不明者の所在が不明と認識されてから、どれだけの期間が経過しているのかによって判断をする必要があります。
行方不明と認識されてから7年以上経過すれば「失踪宣告」の対象となりますが、7年未満では対象外です。
そのため不在者が行方不明となってから7年未満の場合には「不在者財産管理人の選任」、7年経過している場合には「失踪宣告」による手続きを行うことが通常となります。
しかし、行方不明となってから7年以上経過している場合でも、家族の心理やさまざまな事情などから行方不明者を死亡扱いすることに問題が生じる場合などには「不在者財産管理人の選任」の手続きを選択することもあるかと思います。
ただし、上記の例のように、疎遠になっているだけ、そもそも会ったことがないというような場合は、7年間行方不明になっているということは難しいと思いますので、不在者財産管理人の選任の手続きしかできないと思われます。
その手続きをしたあと7年後に、失踪宣告の手続きをして、不在者財産管理人が管理している財産について手続きをしていくことができるようになります。