相続税を支払う必要がある人とは?(相続税の納税義務者)
相続税を支払う必要がある人は、大まかに言うと「相続・遺贈により財産を取得し、計算の結果として納付すべき相続税額が算出された人」です。
相続税を支払わなくてよい人の条件
逆に言えば、相続・遺贈によって財産を取得しても、納付すべき相続税額の生じない人は(当然に)相続税を支払う必要がありません。
例えば、次のような人は相続税を支払う必要がありません。
1.相続・遺贈により財産を取得した各人の相続税の課税価格を合計しても、その合計額が遺産に係る基礎控除額を超えないこととなる人
2.相続・遺贈により財産を取得した各人の相続税の課税価格を合計し、その合計額が遺産に係る基礎控除額を超えるものの、(一定の税額控除によって)納付すべき相続税額が生じないこととなる人
相続税のかかる人と課税される財産の範囲
さて、「相続税の課税価格」という言葉が出てきましたが、これは大雑把に言うと「相続・遺贈により財産を取得した人の、その財産の価額の合計額」を意味します。
ここで、相続・遺贈により財産を取得した人または被相続人の住所や日本国籍の状況によって、相続税のかかる財産の範囲(取得したすべての財産に対して相続税がかかるのか、それとも取得した財産のうち日本国内に所在するものに対してのみ相続税がかかるのかという点)に違いが生じます。
例えば、相続・遺贈により財産を取得した人が(財産取得時点で)日本国内に住んでいた場合(短期滞在等の場合を除く。)には、被相続人が外国人であったとしても、取得した財産の全て(外国に有するものも含む。)に対して相続税が課されますが、相続・遺贈により財産を取得した人が(財産取得時点で)日本国内に住んでおらず日本国籍も持たず、被相続人が亡くなる前10年以内に日本国内に住んだこともなかった場合には、取得した財産のうち日本国内に所在するものだけに相続税が課されます。
相続税のかかる人と相続税のかかる財産の範囲の関係を、相続・遺贈により財産を取得した人または被相続人の住所・日本国籍の有無の観点からまとめると、次の表の通りとなります。
〇相続税のかかる人と課税される財産の範囲のまとめ
相続税のかかる人 | 課税される 財産の範囲 |
(1)居住無制限納税義務者 相続・遺贈により財産を取得した個人で、財産を取得した時において日本国内に住所を有する者(その者が一時居住者(※1)であって、被相続人が外国人被相続人(※2)または非居住被相続人(※3)である場合のものを除く。) |
取得した すべての財産 |
(2)非居住無制限納税義務者 相続・遺贈により財産を取得した個人で、財産を取得した時において日本国内に住所を有しない者のうち、次の①~②に該当するもの ①財産を取得した時において日本国籍を有しており、次のイまたはロに当てはまる人 イ.相続の開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある。 ロ.相続の開始前10年以内のいずれの時においても日本国内に住所を有していたことがない(被相続人が外国人被相続人(※2)または非居住被相続人(※3)である場合を除く。)。 ②財産を取得した時において日本国籍を有していない人(被相続人が外国人被相続人(※2)、非居住被相続人(※3)または非居住外国人(※4)である場合を除く。) |
取得した すべての財産 |
(3)制限納税義務者 ①相続・遺贈により日本国内にある財産を取得した個人で、財産を取得した時において日本国内に住所を有する者((1)に該当する者を除く。) ②相続・遺贈により日本国内にある財産を取得した個人で、財産を取得した時において日本国内に住所を有しない者((2)に該当する者を除く。) |
取得した財産のうち日本国内にあるもの |
(4)特定納税義務者 贈与(死因贈与を除く。)により相続時精算課税制度(※5)の適用を受ける財産を取得した個人(上記(1)~(3)のいずれかに該当する者を除く。) |
相続時精算課税制度の適用を受ける財産 |
※1.一時居住者とは、相続開始時において在留資格(注)を有する者で、その相続の開始前15年以内において日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である人をいいます。
(注)出入国管理法及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格をいいます。
※2.外国人被相続人とは、相続開始時において在留資格(注)を有し、かつ、日本国内に住所を有していた被相続人をいいます。
※3.非居住被相続人とは、相続開始時において日本国内に住所を有していなかった被相続人のうち、次の①または②に該当するものをいいます。
①その相続の開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがあり、そのいずれの時においても日本国籍を有していなかったもの
②その相続の開始前10年以内のいずれの時においても日本国内に住所を有していたことがないもの
※4.非居住外国人とは、平成29年4月1日から相続・遺贈の時まで引き続き日本国内に住所を有しておらず、日本国籍を有しない人をいいます。
※5.相続時精算課税制度の概要については、「相続時精算課税制度」をご覧下さい。
日本国外に住所を有する人に対する納税義務について
平成12年の相続税法の改正前までは、相続税の納税義務について、単に相続または遺贈により財産を取得した者の住所地が日本国内にあるか否かというだけで、無制限納税義務と制限納税義務の判別が行われていました。
そのような制度の下では、人・財産を国外に移転することによって、日本国外に所在する財産を相続税の課税対象から除くことができ、簡単に租税回避が行われてしまう状況にありました。
そうした租税回避に対応するため、平成12年度、平成15年度及び平成25年度の相続税法の改正によって、日本国外に住所を有する場合であっても、一定の要件を満たせば無制限納税義務が課されることとなりました。
しかしながら、その改正後においても、被相続人と財産取得者の双方が相続開始前5年を超えて国外に住所を有していれば日本国外に所在する財産について相続税の課税を逃れることが可能となっており、依然として租税回避のための国外移住が横行する状況にありました。
一方で、経済のグローバル化・ボーダレス化の進展で日本国内における外国人就労者が増加し続ける中、平成25年度の相続税法の改正による無制限納税義務の範囲の拡大が日本で一時的に就労しようとする外国人にとっての予期せぬ弊害を生んでいたことも少なからずありました。
そのような経緯から、高度外国人材等の受け入れと長期間の滞在を促進すべく在留外国人(一時的に日本に住所を有する外国人)同士の相続や就労等のために日本に居住する外国人が死亡した場合の相続については相続税の課税対象を制限するとともに、富裕層の国外移住を利用した租税回避行為を抑制し、課税逃れ防止のための措置を講じる観点から、平成29年度、平成30年度及び令和3年度の相続税法の改正によって相続税の納税義務・課税財産の範囲については様々な見直しが行われ、現在の制度に至っています。
現在は、相続税のかかる人・財産はかなり広範囲に及ぶと考えられ、日本の相続税のかからない範囲としては、外国人の関わる相続における日本国外の財産等、かなり限られたものになると思われます。
相続税のかかる人と財産の範囲は、相続税を計算する前提として極めて重要な点ですが、その判断に当たっては、相続開始時点のみならず、それ以前の期間において被相続人・相続人の置かれた状況を適切に把握する必要があります。
なお、一定の場合においては、個人ではありませんが、人格のない社団(例えば町内会)・財団や持分の定めのない法人(例えば一般社団法人等)に対して、個人とみなされて相続税が課税されることもあります。
この点に関しては、「個人以外の者が相続税・贈与税の納税義務者となる場合」をご覧下さい。