個人以外の者が相続税・贈与税の納税義務者となる場合
相続税・贈与税は、原則として個人に対して課されるものです。
この点は、相続税法の規定の序盤(第1条の3・第1条の4)において、相続税・贈与税の納税義務者について、相続・遺贈・贈与により財産を取得した「個人」と定められていることから明らかです。
では、例えば法人が贈与や遺贈によって財産を取得した場合には、どうなるのでしょうか。
この場合には、原則として贈与や遺贈により取得(無償による資産の譲受け)をした財産の価額に相当する収益の額が法人税の課税対象となります。
ただし、その贈与や遺贈が資本等取引(例:増資)に当たる場合や、公益法人等に対する寄付に該当する場合などは、この限りではありません。
このように、同じ贈与や遺贈という行為によって財産を取得した場合であっても、その財産を取得した者が個人であるか法人であるかによって課される税目が異なることとなると、税目ごとの税率の違い(2021年4月時点で言うと、相続税・贈与税の最高税率が55%であるのに対し、法人税の最高税率が23.2%である点)に着目した租税回避行為が行われる余地が生じます。
そこで、相続税法ではそのような租税回避行為に対処するため、次の1~4のように、一定の場合においては個人以外の者に対しても相続税・贈与税を課す旨の定めがなされています。
1. 人格のない社団等に対する贈与税・相続税の課税
代表者または管理者の定めのある人格のない社団等に対して財産の贈与または遺贈(その社団等を設立するための財産の提供を含む。)があった場合においては、その社団等が個人とみなされて、これに贈与税または相続税が課されることとなります。
人格のない社団等とは、例えば学校のPTA、研究会やクラブ、労働組合、マンションの管理組合など、法人格のない社団(人の集まり)または財団(財産の集まり)のことをいいます。
この取扱いの趣旨は、人格のない社団等を利用した財産の私的流用による租税回避を抑止することにあります。
なお、公益事業を行う人格のない社団等に対し公益事業の用に供する目的で財産の贈与や遺贈がされた場合には、一定の要件を満たす限り、その財産については相続税・贈与税の非課税財産として取り扱われます。
この点について詳しくは、「公益を目的とする事業を行う者が取得した財産が相続税の非課税財産となる場合」をご覧下さい。
2. 持分の定めのない法人に対する贈与税・相続税の課税
持分の定めのない法人に対して財産の贈与または遺贈(その法人を設立するための財産の提供を含む。)があった場合において、その贈与または遺贈によりその贈与または遺贈をした者の親族その他特別関係者の贈与税または相続税の負担が不当に減少する結果となると認められる(※)ときは、その法人が個人とみなされて、これに贈与税または相続税が課されることとなります。
なお、持分の定めのない法人とは次に掲げる法人をいい、例えば一般社団法人、一般財団法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、特定非営利活動法人、宗教法人、持分の定めのない医療法人などが挙げられます。
(1) 定款、寄附行為もしくは規則(定款等)または法令の定めにより、その法人の社員、構成員(その法人への出資者(社員等)に限る。)がその法人の出資に係る残余財産の分配請求権または払戻請求権を行使することのできない法人
(2) 定款等に社員等がその法人の出資に係る残余財産の分配請求権または払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人
※親族や特別関係者の贈与税または相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、相続税法施行令第33条第3項各号や同条第4項各号の要件に基づいて判定されますが、要するに、持分の定めのない法人を利用した財産の私的流用によってこれらの者の税負担が不当に少なくなるかどうか、ということがポイントになります。例えば、一般社団法人に対して財産の贈与または遺贈があった場合において、その一般社団法人の定款で、役員等のうち親族等の占める割合を3分の1以下とする旨の定めがないときは、贈与税または相続税の負担が不当に減少する結果となると認められ、贈与税または相続税が課されることとなります。
この取扱いの趣旨は、持分の定めのない法人を利用した財産の私的流用による租税回避を抑止することにあります。
3. 特別の法人から利益を受ける者に対する贈与税・相続税の課税
持分の定めのない法人(持分の定めのある法人で持分を有する者がないものを含む。)で、その施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属等について設立者、社員、理事、監事もしくは評議員、その法人に対し贈与もしくは遺贈をした者またはこれらの者の親族その他これらの者と特別の関係がある者に対し特別の利益を与えるものに対して財産の贈与または遺贈があった場合においては、上記2の取扱いがなされる場合を除き、その財産の贈与または遺贈があったときにおいて、その法人から特別の利益を受ける者が、その財産(公益を目的とする事業を行う者が取得した非課税財産を除く。)の贈与または遺贈により受ける利益の価額に相当する金額を、その財産の贈与または遺贈をした者から贈与または遺贈により取得したものとみなして、贈与税または相続税が課されることとなります。
この取扱いの趣旨は、上記2の取扱いと同様、持分の定めのない法人を利用した財産の私的流用による租税回避を抑止することにありますが、上記2の取扱いだけでは租税回避を抑止しきれないことを想定し、より広範囲の特別関係者を課税対象者とすることにあります。
4. 特定の一般社団法人等に対する課税
一般社団法人等(注1)の理事である者(その一般社団法人等の理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む。)が死亡した場合において、その一般社団法人等が特定一般社団法人等(注2)に該当するときは、その特定一般社団法人等が、その死亡した者(被相続人)の相続開始時におけるその特定一般社団法人等の純資産額(注3)をその時におけるその特定一般社団法人等の同族理事(注4)の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなし、その特定一般社団法人等を個人とみなして、その特定一般社団法人等に相続税を課すこととされています。
(注1) 一般社団法人等とは、一般社団法人または一般財団法人のうち、公益社団法人・公益財団法人や法人税法第2条第9号の2に規定されている非営利型法人に該当する一般社団法人・一般財団法人以外のものをいいます。
(注2) 特定一般社団法人等とは、一般社団法人等のうち、次の(1)または(2)の要件のいずれかを満たすものをいいます。
(1) 被相続人の相続開始の直前における、理事の総数のうちその被相続人に係る同族理事の数の占める割合が2分の1を超えること。
(2) 被相続人の相続開始前5年以内において、理事の総数のうちその被相続人に係る同族理事の数の占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
(注3) 純資産額は、次の(1)から(2)を控除した残額です。
(1) 被相続人の相続開始時において特定一般社団法人等が有する財産(信託の受託者として有するもの及びその被相続人から遺贈により取得したものを除く。)の価額の合計額
(2) 次の①~④の合計額
① 特定一般社団法人等が有する債務で、被相続人の相続開始の際に現に存するもの(確実と認められるものに限り、信託の受託者として有するものを除く。)の金額
② 特定一般社団法人等に課される国税または地方税で、被相続人の相続の開始以前に納税義務が成立したもの(その相続の開始以前に納付すべき税額が確定したもの及びその被相続人の死亡につき課される相続税を除く。)の額
③ 被相続人の死亡により支給する退職給与の額
④ 被相続人の相続開始の時における基金の額
(注4) 同族理事とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人またはその配偶者、三親等内の親族その他の被相続人と特殊の関係のある者をいいます。
この取扱いの趣旨は、同族支配下にある一般社団法人等(持分の定めのない法人)に財産を保有させて個人所有の財産から切り離しておきながら、実質的に財産を家族へ承継させるのと同等の効果を得られる可能性があることから、そのような仕組みを利用した租税回避を抑止することにあります。
なお、この取扱いは平成30年4月1日以後における一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用されますが、次のように一定の経過措置があります。
・平成30年3月31日以前に設立された一般社団法人等に関しては、2021年4月1日以後におけるその一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用されます。
・平成30年3月31日以前の期間に関しては、上記(注2)の(2)の期間(理事の総数のうちその被相続人に係る同族理事の数の占める割合が2分の1を超える期間)に該当しないものとされます。