配偶者居住権の新設
2018年7月13日に公布された民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律によって、相続発生後に残された配偶者の居住権を保護するための方策として、配偶者居住権の制度が創設され、2020年4月1日以降に開始する相続について、その権利を設定することができるようになりました。
1.配偶者居住権の制度創設の背景
高齢化が進展し続けている我が国においては、夫婦のいずれかが死亡した後、残された配偶者が長生きすることも珍しくありません。
多くの場合、残された配偶者は住み慣れた家で引き続き生活していきたいと思うでしょう。
自宅が被相続人のものであった場合において、相続人が複数いるときは、これを誰が相続するか決める必要が生じますが、残された配偶者が居住の継続を希望するのであれば、配偶者が自宅を相続する、配偶者以外の相続人が自宅を相続して配偶者はそこに同居させてもらう、または配偶者以外の相続人が自宅を相続してその相続人の同意のもとで配偶者はそこに住み続けるなどという方法を取る必要がありました。
そのような方法で問題が起きなければよいのですが、ともすれば、配偶者と他の相続人との間で相続争いになってしまったり、居住を継続するために配偶者が多額の金銭を負担しなければならなくなってしまうという事態が懸念されていました。
そこで、配偶者居住権の制度創設によって、配偶者が自宅不動産の所有権を相続せずとも自宅への居住を継続する権利を取得することを認めるとともに、配偶者にとって遺産のうち金融資産を相続する余地を広げ、遺産分割に当たっての選択肢を増やすことで、残された配偶者の生活に配慮する措置が講じられました。
2.配偶者居住権の制度(民法)の概要
配偶者居住権に関する民法の規定では、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が定められています。
それぞれの権利の概要とポイントは、下記の通りです。
(1)配偶者居住権(民法第1028条~第1036条)
被相続人の配偶者(以下、単に「配偶者」といいます。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下、「居住建物」といいます。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下、「配偶者居住権」といいます。)を取得することとされています。
・遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
・配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
<配偶者居住権に関する民法のポイント>
①権利の成立要件
配偶者居住権は、次のイ~ハの要件を全て満たす場合に成立します。
イ.被相続人の配偶者であること。
配偶者とは、法律(民法第739条第1項、戸籍法第74条)に基づく配偶者のことを指し、事実婚の相手や同性のパートナーは、これに含まれません。
ロ.被相続人の相続開始時において、被相続人の所有する建物に居住していたこと。
「被相続人の所有する建物」には、被相続人と配偶者で共有する建物が含まれますが、被相続人と配偶者以外の第三者で共有する建物は、これに含まれません。
ハ.居住建物について、配偶者に配偶者居住権を取得させる内容の遺産分割または遺贈もしくは死因贈与のいずれかがあること。
②権利の性質
配偶者居住権は配偶者の居住の利益を保護するためのもので、配偶者に一身専属するもの(配偶者以外の者に帰属することのないもの)であり、これを譲渡することはできません(民法第1032条第2項)。
また、配偶者居住権は、居住建物の所有者に対し、居住建物の全部を無償で使用・収益させることを求める権利であり、債権の一種と位置付けられます。
③権利の及ぶ範囲
配偶者居住権は居住建物の全部に及ぶこととされていますが、この点に関して、配偶者が相続開始時において居住建物の全体を居住用としていたことまでは求められておらず、例えば居住建物が店舗兼住宅であった場合においても、配偶者居住権は店舗部分を含む建物全体に及びます。
従前は居住用としていなかった部分について、これを居住用とすることも認められています(民法第1032条第1項ただし書)。
④権利の存続期間
配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間とされています(民法第1030条本文)。
ただし、遺産分割や遺言の定めによって、有期の存続期間を設定することもできます(民法第1030条ただし書)。
⑤権利の消滅
配偶者居住権は、次のイ~ホの事由によって消滅します。
イ.配偶者の死亡
ロ.遺産分割や遺言により存続期間を定めた場合における、その存続期間の満了
ハ.居住建物の所有者による消滅請求
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物の使用及び収益をする義務を負います(民法第1032条第1項本文)。
また、配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物を改築・増築し、または第三者に居住建物の使用・収益をさせることができません(民法第1032条第3項)。
配偶者が上記の義務に違反し、または上記の承諾を得ずに居住建物を改築・増築し、もしくは第三者に使用・収益させた場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、その配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます(民法第1032条第4項)。
ニ.配偶者・所有者間での消滅の合意
ホ.居住建物の全部滅失等により使用及び収益が不能となったこと
⑥権利の登記
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者に対し、配偶者居住権の設定登記を行うことを請求できます(民法第1031条第1項)。
配偶者居住権の設定登記は配偶者居住権の成立要件ではありませんが、登記を備えなければこれを第三者に対抗することができません。
例えば、所有者が居住建物を第三者に譲渡した場合において、その第三者が先に所有権移転登記等の対抗要件を備えたときは、一定の例外を除き、配偶者は配偶者居住権の存在をその第三者に対抗できなくなってしまいます。
したがって、配偶者居住権を取得するのであれば、速やかにその設定登記をすることが重要です。
<配偶者居住権の評価>
配偶者居住権は、財産的価値のある建物を無償で使用・収益する権利であり、これ自体についても財産的価値があると考えられています。
そうすると、配偶者居住権についても、これ以外の遺産と同様に評価の問題が生じることがあります。
評価に当たっては、評価の目的によって様々な考え方がありますが、民法上は公平な遺産分割の実現の観点から、共同相続人間で合意できる価額をもって配偶者居住権の価額を決定すればよいこととなります。
他方、配偶者居住権は、相続財産の分割行為である遺産分割等によって設定され、具体的相続分を構成するものであることから、相続税の課税対象となりますので、相続税の観点からの評価も必要となります。
配偶者居住権の相続税評価については、下記「3.配偶者居住権等に関する相続税務のポイント」でご説明します。
(2)配偶者短期居住権(民法第1037条~第1041条)
配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、一定の期間(下記③参照)、その居住していた建物(以下「居住建物」といいます。)の所有権を相続または遺贈により取得した者(以下「居住建物取得者」といいます。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下「配偶者短期居住権」といいます。)を有することとされています。
配偶者短期居住権は、相続開始によって当然に発生する権利で、相続開始直後における配偶者の居住関係の安定を図るためのものです。
<配偶者短期居住権に関する民法上のポイント>
①権利の成立要件
配偶者短期居住権は、次のイ及びロの要件を満たす場合に成立します。
イ.被相続人の配偶者であること。
配偶者が法律上の配偶者を指すことは配偶者居住権の場合と同じですが、配偶者短期居住権は、配偶者が相続放棄した場合であっても成立します。
ただし、配偶者が欠格事由または廃除によって相続権を失った場合には、配偶者短期居住権は成立しません。
また、配偶者が相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、より強固な権利を得ることになるため、配偶者短期居住権は成立しません。
ロ.被相続人の相続開始時において、被相続人の所有する建物に無償で居住していたこと。
配偶者居住権の場合と異なり、配偶者短期居住権の場合の「被相続人の所有する建物」には、被相続人と配偶者で共有する建物の他、被相続人と配偶者以外の第三者で共有する建物(のうち被相続人の持分部分)が含まれます。
②権利の及ぶ範囲
配偶者居住権の場合と異なり、配偶者短期居住権は居住建物のうち被相続人の相続開始時において無償で使用していた部分にのみ及ぶこととされています。
③権利の存続期間
配偶者短期居住権の存続期間は、次のイまたはロ場合に応じ、それぞれ定められています。
イ.居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合
遺産分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6ヶ月を経過する日のうち、いずれか遅い日
ロ.上記イ以外の場合
具体的には、被相続人が遺言により配偶者以外の相続人に特定財産承継遺言をしていた場合、被相続人が法定相続人ではない者に居住建物を遺贈した場合または遺言は存在しないものの配偶者が相続放棄をしたために配偶者を除く共同相続人間で遺産分割をすべき場合には、居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6ヶ月を経過する日
④権利の消滅
配偶者短期居住権は、次のイ~ヘの事由によって消滅します。
イ.配偶者の死亡
ロ.存続期間の満了
ハ.居住建物取得者による消滅請求
配偶者は配偶者短期居住権を取得すると、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物を使用する義務を負います(民法第1038条第1項)。
また、配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができません(民法第1038条第2項)。
配偶者が上記の義務に違反し、または上記の承諾を得ずに第三者に居住建物を使用させた場合には、居住建物取得者は、その配偶者に対する意思表示によって(無催告で)配偶者短期居住権を消滅させることができます(民法第1038条第3項)。
ニ.配偶者・所有者間での消滅の合意
ホ.居住建物の全部滅失等により使用及び収益が不能となったこと
ヘ.配偶者による配偶者居住権の取得
配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅します(民法第1039条)。
なお、配偶者は、上記ヘの場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければなりません(民法第1040条本文)。
ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができません(民法第1040条ただし書き)。
<配偶者短期居住権の評価>
配偶者短期居住権は、短期間に限定された権利であり、遺産分割の場面においては財産的価値のあるものとしては取り扱われません。
3.配偶者居住権等に関する相続税務のポイント
既に述べた通り、配偶者居住権は、相続財産の分割行為である遺産分割等によって設定され、具体的相続分を構成するものであることから、相続税の課税対象となりますので、相続税の観点からこれを評価する必要が生じます。
相続税法においては、相続・遺贈により取得した財産を評価する際の原則として、「特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈により取得した財産の価額は、その財産の取得の時における時価による」ことを定めています(相続税法第22条)。
ここで、配偶者居住権の評価に当たっては、主として次のような理由から、時価によるのではなく、相続税法第23条の2に基づく特別の定めによることとされました。
・相続税法における「時価」とは、課税時期におけるそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、つまり客観的な交換価値をいうものと解されており、取引可能な財産を前提としているが、配偶者居住権については譲渡が禁じられているため、この「時価」の解釈を前提とする限り、その評価を解釈に委ねるには馴染まないと考えられること。
・配偶者居住権の評価額について解釈が確立されているとは言えない現状において、その評価を解釈に委ねると、納税者がこれをどのように評価すればよいか判断するのは困難であると考えられ、また納税者によって評価方法がまちまちとなり、課税の公平性が保たれなくなるおそれがあること。
・配偶者の余命年数を大幅に超える存続期間を設定して配偶者居住権を過大評価し、配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けるなどの租税回避的な行為を防止するためには、その評価方法について法令で定めることが適切と考えられること。
なお、遺産分割等の場面では、相続税法に定められている評価方法によらず、相続人間で合意した価額で配偶者居住権を設定することも可能ですが、相続税の計算に当たっては、相続税法に定められている評価方法を用いて評価しなければならず、他の評価方法で申告することは認められません。
(1)配偶者居住権等に関する相続税評価の基本的考え方
配偶者居住権を取得した配偶者は、その存続期間中、従前から居住していた建物を無償で使用・収益することができます。
この点について、その建物の所有権を取得した相続人から見れば、配偶者居住権が存続する期間中は配偶者による無償の使用・収益を受忍する負担を負い、存続期間満了時点でその建物を自由に使用・収益することのできる完全な所有権に復することになります。
この点に着目し、まず、存続期間満了時点における建物所有権の価額を算定し、これを一定の割引率により現在価値に割り戻すことにより、相続開始時点における(配偶者居住権付の)建物所有権の評価額を算定することとされました。
そして、この価額を配偶者居住権が設定されなかったものとした場合の相続開始時点における建物所有権の評価額から控除することにより、間接的に配偶者居住権を評価することとされました。
配偶者居住権に基づく敷地の使用権についても、同様の考え方で評価することとされました。
配偶者居住権等に関する相続税評価のイメージ
※引用元:国税庁公式サイト「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」について(情報)3 相続税法における配偶者居住権等の評価の考え方」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/200701/pdf/03.pdf
(2)配偶者居住権等に関する相続税評価の具体的な方法
配偶者居住権及びこれに関わる財産の相続税評価額の算定に当たっては、具体的には、次の①~④に分けて評価することとなります(相続税法第23条の2)。
①配偶者居住権の価額(相続税法第23条の2第1項)
居住建物(※1)の時価(※2)-居住建物の所有権部分の価額(下記②)
※1配偶者居住権の目的となっている建物のこと(以下同じ。)です。
※2居住建物の時価は、居住建物の相続開始時における、配偶者居住権が設定されていないものとした場合のその居住建物の時価をいい、相続税法第22条に基づく時価(財産評価基本通達の定めにより評価した価額)のこと(以下同じ。)です。
なお、居住建物の一部が賃貸用である場合や被相続人が相続開始直前において居住建物を配偶者と共有していた場合には、居住建物の時価のうち賃貸用でない部分や被相続人の持分割合に応ずる部分の価額を一定の方法で按分し、その部分の価額を用いることとなります。
②居住建物の所有権部分の価額(相続税法第23条の2第2項)
この算式における各用語の意味するところは、それぞれ次のイ~ニの通りです。
なお、この算式により計算した価額が0以下となるときは、居住建物の所有権部分の価額は0円となります。
イ.耐用年数
居住建物の全部が住宅用であるものとした場合における、その居住建物に係る減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定める耐用年数に1.5を乗じて計算した年数(6 月以上の端数は切り上げ、6月未満の端数は切り捨て)のことで、具体的には居住建物の構造に応じ、下表に掲げる年数を用います。
ロ.経過年数
居住建物の新築時から配偶者居住権の設定時までの年数(6月以上の端数は切り上げ、6月未満の端数は切り捨て)のことです。
ここで、「配偶者居住権の設定時」とは、次の場合に応じ、それぞれに定める時をいいます。
・遺産分割によって配偶者居住権を取得する場合:遺産分割が行われた時
・配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合:相続開始時
なお、遺産分割の協議または審判により配偶者居住権が設定される場合には、配偶者居住権の効力が生じるのは相続開始時よりも後の時点であり、その時点を起算点として配偶者居住権の存続年数が定まると考えられることから、居住建物の経過年数についても、相続開始時ではなく、配偶者居住権の設定時までの年数で数えることとされています。
ハ.存続年数
配偶者居住権が存続する年数のことですが、具体的には、次のAまたはBの場合に応じ、それぞれに定める年数(6月以上の端数は切り上げ、6月未満の端数は切り捨て)となります。
A:配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間とされている場合
その配偶者居住権が設定された時におけるその配偶者の平均余命の年数
なお、この「平均余命」は、配偶者居住権が設定された時の属する年の1月1日現在において厚生労働省が公表する「完全生命表」に掲載されている平均余命に基づき判定します。
B: A以外の場合
遺産分割の協議・審判または遺言で定められた配偶者居住権の存続年数
ただし、その年数が、配偶者居住権が設定された時における配偶者の平均余命の年数(上記Aの年数)を超える場合には、その平均余命の年数とします。
したがって、例えば平均余命の年数が10年である配偶者について、遺産分割により存続期間50年の配偶者居住権を設定したとしても、上記ただし書きの通り、平均余命の年数である10年が相続税評価上の存続年数となります。
ニ.一定の複利現価率
配偶者居住権が設定された時における、その配偶者居住権の存続年数に応じた法定利率による複利現価率のことで、次の算式により算出した率をいいます。
この複利現価率については、具体的には、国税庁の公表する「複利表」に記載されている値を用いることとなります。
③居住建物の敷地を配偶者居住権に基づき使用する権利の価額(相続税法第23条の2第3項)
その敷地の時価(※3)-居住建物の敷地の用に供される土地等の価額(下記④)
※3その敷地の時価は、居住建物に配偶者居住権が設定されていないものとした場合の、その居住建物の敷地の用に供されている土地・土地の上に存する権利(以下、「土地等」といいます。)の相続開始時における時価をいい、相続税法第22条に基づく時価(財産評価基本通達の定めにより評価した価額)のこと(以下同じ。)です。
なお、居住建物の一部が賃貸用である場合や被相続人が相続開始直前において居住建物の敷地の用に供される土地等を他の者と共有し、もしくは居住建物を配偶者と共有していた場合には、その敷地の時価のうち賃貸用でない部分や被相続人の持分割合に応ずる部分の価額を一定の方法で按分し、その部分の価額を用いることとなります。
④居住建物の敷地の用に供される土地等の価額(相続税法第23条の2第4項)
その敷地の時価 × 一定の複利現価率
この価額の算定に当たってはまず、居住建物の敷地の用に供される土地等の配偶者居住権の存続期間満了時点での価額を算出することとなりますが、この場合、将来時点における土地等の時価を算定することには不確実性を伴い、困難な場合が多いと考えられること等の事情から、時価変動を捨象し、存続期間満了時点における価額は相続開始時点における価額と等しいものと仮定することとなります。
なお、この場合の敷地の時価については、居住建物に賃貸部分がある場合でも、上記③の※3なお書きのような按分計算を行いません。
また、一定の複利現価率は、上記②ニの通りです。
(3)配偶者居住権が消滅した場合の取扱い
①配偶者と居住建物の所有者との合意等によって消滅したとき
配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者とその配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意もしくはその配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合、または民法第1032条第4項の規定(居住建物の所有者による消滅の意思表示)により消滅した場合において、その建物の所有者またはその建物の敷地の用に供される土地等の所有者(以下「建物等所有者」といいます。)が、対価を支払わなかったとき、または著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、その建物等所有者が、その消滅直前に、その配偶者が有していたその配偶者居住権の価額またはその土地等をその配偶者居住権に基づき使用する権利の価額(対価の支払があった場合には、その支払額を控除した金額)を、その配偶者から贈与により取得したものとして取り扱うこととされています。
このように、何らかの理由で配偶者居住権の存続期間の満了前に配偶者居住権が消滅することとなった場合には、贈与税の負担が生じる恐れがありますので、配偶者居住権の設定に当たっては、一次相続発生後の配偶者の生活スタイル(もともと住んでいた建物に住み続けられるのか、介護施設に入居するのか、別の建物で他の相続人と同居するのか等の事情)や、二次相続も見据えて慎重に検討した方がよいと考えられます。
②配偶者の死亡によって消滅したとき
配偶者が死亡したときは、民法の規定により配偶者居住権が消滅します。
この場合は、配偶者居住権は予定通りに消滅することから、贈与によって取得したものと取り扱われる利益が生じることはなく、また配偶者の相続発生によって居住建物の所有者に配偶者居住権や居住建物の敷地を配偶者居住権に基づき使用する権利(敷地使用権)が移転することはありませんので、配偶者居住権・敷地使用権に関して相続税の課税関係も生じません。
(4)小規模宅地等についての相続税の課税価格計算の特例について
配偶者居住権は建物を無償で使用・収益する権利ですから、これ自体が小規模宅地等についての相続税の課税価格計算の特例の対象になることはありません。
他方で、敷地使用権は「土地の上に存する権利」ですから、これは小規模宅地等についての相続税の課税価格計算の特例の対象となり得ます。
先述の通り、配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅したときは、二次相続においては配偶者居住権・敷地使用権に関して相続税の課税関係が生じませんから、一次相続において「配偶者居住権を設定するとともに、居住建物の所有権部分及びその敷地は小規模宅地等についての相続税の課税価格計算の特例を適用できる者に取得させる」という形で、二次相続時の相続税対策をすることも考えられます。
ただし、一次相続から二次相続までの間にそれぞれの者の置かれた状況が変わる可能性もありますので、やはり配偶者居住権の設定に当たっては慎重な検討が必要と考えられます。