配偶者の税額軽減
夫婦というのは、少なからず互いに支えあって生活しているものであり、婚姻期間中に蓄積した財産は夫婦の協力によって築き上げられたものであると考えるのが自然です。
そこで、夫婦のいずれかが亡くなった際には、相続財産の維持形成に対する配偶者の貢献への配慮とともに、相続開始後における配偶者の生活や二次相続時に発生するであろう相続税負担への配慮から、配偶者に対する相続税額の軽減制度が設けられています。
被相続人から相続または遺贈により財産を取得した配偶者については、下記の通り、その納付すべき相続税額から一定の金額が軽減されます。
税額軽減額
配偶者の算出相続税額(暦年課税分の贈与税額控除額があるときは、それを控除した後の金額)を限度として、次の算式により計算した金額がその配偶者の納付すべき相続税額の計算上、控除されます。
①課税価格の合計額 × 配偶者の法定相続分(※)
※相続の放棄があった場合にはその放棄がなかったものとした場合における法定相続分とし、計算結果が1億6,000万円に満たない場合は、1億6,000万円とします。
②配偶者の課税価格
このように、配偶者の相続税の課税価格が、相続税の課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額または1億6,000万円以下であれば、配偶者は相続税を納める必要がありません。
配偶者が相続を放棄している場合であっても、遺贈により取得した財産やみなし相続財産については、この制度の適用があります。
なお、被相続人と内縁関係にある者は、配偶者には含まれません。
適用要件
この制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
(1)この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書(期限後申告書、修正申告書を含む。)を提出すること。
その申告書には、次の書類を添付する必要があります。
①税額軽減額の計算明細書
②被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本(相続開始日から10日を経過した日以後に作成されたもの)または図形式の法定相続情報一覧図の写し(どちらもコピーで可)
③遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し(印鑑証明書添付)その他財産の取得状況を証する書類
なお、この制度の適用の結果、納付すべき相続税額がゼロとなる場合でも、相続税の申告書を提出しなければなりません。
(2)相続税の申告期限までに遺産が分割されていること。
相続税の申告期限までに分割されていない財産は、税額軽減の計算の基礎となる財産に含まれません。
ただし、遺産未分割の状況で相続税の申告書を提出する場合において、相続税の申告期限後3年以内に遺産が分割される予定であるときは、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、その分割された遺産については事後的にこの制度の適用を受けることができます。
なお、その見込書を提出した場合において、相続税の申告期限から3年以内に遺産が分割されず、その分割されなかったことにつきやむを得ない事情があるとして納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、「申告期限後3年以内」という制限期間を延長することができます。
隠蔽仮装行為があった場合
相続または遺贈により財産を取得した配偶者が、隠蔽仮装行為に基づき、相続税の期限内申告書を提出しており、またはこれを提出していなかった場合において、その相続税についての調査があったことにより更正または決定があるべきことを予知して相続税の期限後申告書または修正申告書を提出するときは、その期限後申告書または修正申告書に係る相続税額についてこの制度の適用をする上では、隠蔽仮装行為による事実に基づく金額を、上記「税額軽減額」に示す算式中の各金額に含めることができません。
つまり、意図的に財産の申告漏れをしたり、意図的に無申告としてしまうような配偶者に対しては、この制度の適用が制限されてしまうということです。
当然ながら、適正な申告を行う配偶者がこの制度の恩典を受けられることになります。