1.養子の取り扱い
今回は、被相続人に養子がいた場合について説明します。
① 養子の数の制限
相続税法では、被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで、養子は実子と同じような立場となりますよ、と定められています。
あくまで、この規定は相続税法上の取り扱いであり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか養子縁組ができないということではありません。
民法上は何人でも養子縁組することができますので、10人でも100人でも好きな数だけ養子縁組することができます。
たくさん養子縁組をしても、相続税法では全ての養子を子として取り扱うことはできませんよ、と定めているのです。民法と相続税法の違うところです。ややこしいですね。
≪民法≫
何人でも養子OK!!
≪相続税法≫
実子がいる場合、1人まで子として取り扱う
実子がいない場合、2人まで子として取り扱う
なぜこのように規定されているかというと、昔、この養子縁組を使って相続税の節税が行われていたことがありました。
養子縁組を使って節税??と思われるかもしれませんが、それができたのです。
相続税の基礎控除は、法定相続人の数によって増加するので、養子の数の制限がない時代はたくさん養子縁組をすればするほど基礎控除額が増加して相続税がかからなくなっていたのです。
例えば、Aさんは1億円の財産を所有していたとします。
Aさんは、配偶者Bさん、子Cさん、子Dさんの4人家族でした。
平成26年12月31日までは相続税の基礎控除は、5000万円+1000万円×法定相続人の数(現在は改正されており、現在の相続税の基礎控除は、3000万円+600万円×法定相続人の数)でしたから、Aさんの場合、法定相続人は3名なので、相続税の基礎控除額は8000万円となります。
Aさんの財産が1億円なので、基礎控除の8000万円を差し引くと2000万円残ります。この2000万円が相続税の課税対象となります。
極端な話ですが、もしAさんが10人と養子縁組したらどうでしょうか。昔の規定では、養子もすべて法定相続人になりますので、相続人1人あたり1000万円基礎控除が増えて、合計1億円増えることになります。Aさんの財産は1億円なので、結果として相続税がかからなくなります。
こんなことをしていたら、適正な相続税を計算することができなくなりますよね。
そこで、税制改正があり、養子の数に制限を設けることにしたのです。
2.養子であっても実子とみなされる場合
相続税法では、養子の数に制限を設けていますが、養子であっても実子とみなす場合があります。
次の場合は、養子であっても実の子供とみなし、法定相続人の数に含まれます。
① 特別養子縁組による養子
② 被相続人の配偶者の実の子供で被相続人の養子となった者
③ 被相続人との婚姻前に被相続人の配偶者の特別養子縁組による養子となった者でその被相続人の養子となった者
④ 被相続人の実子若しくは養子又は直系卑属が既に死亡している、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属。なお、直系卑属とは子供や孫のことです。
3.養子縁組は相続税対策になります
では、養子の数が制限されているから現在は養子縁組を使って相続税対策はできないのか、と思われる方がいらっしゃるでしょう。
いえいえ、そんなことはありません。
現在でも養子縁組をすることによって、相続税を減らすことができます。
なぜなら、相続税法では、法定相続人の数をもとに計算する項目があります。養子縁組をすることによって、法定相続人の数が増えれば、相続税を減らすことができるからです。
法定相続人の数をもとに計算する項目は4つあります。
1.基礎控除額の増加
前述していますが、相続税の基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数により計算されます。基礎控除額は、ここまでの金額だったら相続税はかかりませんよ、というボーダーラインみたいなものです。実子が1人いたと仮定して、もう1人を養子縁組すれば、相続税の基礎控除が600万円増えて、600万円分の財産を相続税がかからずに相続できることになります。
例えば、Aさんの家族は、配偶者Bさん、子Cさん、子Dさんとします。
この場合、Aさんの法定相続人は、Bさん、Cさん、Dさんの3人となるので、基礎控除額は4800万円です。Aさんの財産4800万円までは相続税がかかりません。
次に、Aさんは子Cさんの子供Eさん(つまりAさんからみたら孫にあたります。ここでは養子Eさんと呼びます)と養子縁組をしました。
すると、Aさんの法定相続人は、配偶者Bさん、子Cさん、子Dさん、養子Eさんの4名ですね。基礎控除額は、5400万円までとなり、Aさんの財産5400万円までは相続税がかからなくなります。
2.生命保険金の非課税枠の増加
生命保険金は、みなし相続財産として相続税の課税財産の対象になります。相続税法では保険金の非課税枠は、500万円×法定相続人の数により計算されます。
実子が1人いたと仮定して、もう1人を養子縁組すれば、生命保険金の非課税枠が500万円増えることになります。
前に登場したAさん一家を例にして計算してみましょう。
Aさんの家族は、配偶者Bさん、子Cさん、子Dさんです。法定相続人は3名なので、1500万円まで相続税がかからずに生命保険金を受け取ることができます。
では、養子Eさんがいる場合はどうでしょうか。
Eさんと養子縁組をすると、法定相続人は配偶者Bさん、子Cさん、子Dさん、養子Eさんの4名になります。2000万円までは相続税がかからずに生命保険金を受け取ることができるようになるのです。
3.退職手当金の非課税枠の増加
退職手当金も生命保険金と同様にみなし相続財産として相続税の課税財産の対象になります。退職手当金の非課税枠は、500万円×法定相続人の数により計算されます。生命保険金の非課税枠と同じ計算方法です。
実子が1人いたと仮定して、もう1人を養子縁組すれば、退職手当金の非課税枠が500万円増えることになるのです。
4.相続税の総額の計算
相続税は累進課税制度が適用されています。
相続人の数が増えると、一人当たりの法定相続分が低くなるため超過累進税率である相続税の税率が低くなり、相続税の総額が減少します。
4.養子縁組をすることで起こる相続争いに注意
このように養子縁組をすることで、相続税対策をすることができます。
しかし、相続税対策をしたいからといって、やみくもに養子縁組をすることはオススメできません。
なぜなら、養子縁組をしたら養子は実子と同じ立場となり同じ権利、つまり財産を相続する権利を有することになるからです。
実子と同じ立場、ということは、法定相続分も実子と均等ですから、相続税対策としてだけの養子縁組は非常に危険です。
養子縁組が相続争いの引き金になることもあり得ますので、相続税対策のためだけに養子縁組を考えていらっしゃる方は、誰を養子にするか十分に検討する必要があります。