不動産法人化を利用した相続税対策
不動産賃貸業などを個人で行っている場合、法人化することで相続税を節税できる可能性があります。
1.法人化することで財産を法人と個人に分ける
法人とは、法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織のことを言います。法人化とは、個人事業主として事業をおこなっている者が、法人(一般的には、株式会社)を設立して、その法人組織の中で事業を引き継いでおこなっていくことをいいます。
個人が所有している財産が多い場合、相続税も高くなります。
ここで、設立された法人の財産は、個人とは別の法人自体の財産となります。相続や贈与は「個人間の財産の無償移転」であり、法人が所有する財産を個人が相続するということはありません。つまり、個人が法人を設立して、自己の所有する財産をその法人の所有物としておけば、自己の所有財産をあらかじめ減少させることが可能となります。
2.相続人への財産の移転
法人を設立し、財産を引き継がせたい家族等を法人の役員にして役員報酬を支払えば、「贈与」によらずに将来相続人になる人に対して、あらかじめ相続分の先渡しをするのと同様に財産を移転することが可能です。
あくまでも、推定相続人となる方が当該法人の役員報酬として受領するものですので、通常の所得税はかかりますが、法人化することで、贈与税や相続税の負担が軽減できると言えます。
相続税対策として法人を設立する場合のポイント
1.資本金は1,000万円未満
年間の課税売上高が1,000万円を超えなければ、法人でも消費税の納税義務はありません。
また、課税売上がいくらであっても法人設立後最初の2年間、消費税は免除されます。
ですが、資本金1,000万円以上の法人を設立すると、課税売上高がいくらであっても、初年度から消費税を納税しなければなりません。
資本金は1,000万円未満にすることで、消費税を節税できます。
2.財産を持っている本人ではなく、相続人を株主にする
相続対策として会社を設立しても、財産を持っている本人が出資して株主になってしまっては、保有している株式が相続財産となります。
不動産会社を設立する大きな目的は、財産を分散することによる相続税対策です。
そのため、推定相続人となる方に出資をお願いして、株式を保有してもらいましょう。
3.相続人を役員にする
推定相続人を役員にすることで、労働時間の拘束などの必要がなく、家賃収入を役員報酬として移転できます。
推定相続人全員を役員にすると、平等に財産移転ができます。
ただし、未成年者や学生などの実際に仕事をしていると判断することが難しい人を役員にしてしまうと認められない可能性があります。
なお、推定相続人を社員とする場合は、勤務実態が必要となります。
4.建物を法人所有にする
不動産賃貸で家賃収入を得ているのは主に建物部分であるため、建物部分を個人から法人へ売却します。
法人に売却するので、法人から個人へ譲渡代金を支払う必要がありますが、その価額は基本的に、帳簿上の未償却残高などを用います。
建物部分だけ、しかも未償却残高で譲渡することで、譲渡益(譲渡価額が取得費より高い場合の利益)の発生による所得税負担を回避できます。
法人に譲渡代金分の資金がない場合は、個人からの長期借入とします。利子はとる必要はありません。
5.計画的な財産移転
建物の譲渡価額が固定資産税評価額と比べて高額であったり、被相続人の債権(例えば会社への貸付金)の大部分が残ったままで相続が発生すると、その債権も相続財産となり、節税効果が半減してしまいます。
また、被相続人が株式を所有したまま相続が発生すると相続税がその分増えます。
法人化での相続税節税を実現するのは、長期的な視点で綿密な計画をたてることが重要です。
6.土地の無償返還に関する届出
建物だけ法人に売却する場合、土地は個人のものですから、借地権が発生します。
権利金の受け渡しを行わずに借地権を贈与されたとみなされると、法人税法上の受贈益が生じて課税されてしまいます。借地権の認定課税です。
土地の無償返還に関する届出の制度とは、法人又は個人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合で、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、これを届け出る手続です。
この届出を税務署に行っている場合には、権利金の認定課税は行われないこととなります。
ここで、無償返還の届出をしており、個人が法人から適正な地代をもらっているのであれば、その土地の評価額は貸宅地の評価として自用地評価から20%控除できます。
また、貸付事業用宅地として、小規模宅地特例(200㎡まで50%評価減)が使えます。
適正な地代というのは、土地の時価を反映し、本来その土地の地代として収受すべき金額です。通常は、固定資産税の3倍程度を目安に、近隣の地代相場を参考にして決める、といったようなことが行われています。
法人化による相続税以外の節税効果
1.所得税から法人税に変わる
個人の所得税は累進課税という方法で計算されます。累進課税は所得が増えれば税率が上がります。
法人の場合、所得税の代わりに法人税を支払う必要があります。法人税は累進課税ではありません。
個人の所得税率の最大が45%であるのに対し、法人税は最大でも23.2%となります。所得が多い場合、法人化することで適用税率が下がる可能性があります。
2.給与所得控除
個人事業の場合、売上から必要経費を引いた金額が事業所得となり、事業所得に所得税が課税されます。
法人から給与を受け取ると、給与所得控除という一定の控除が受けられます。給与所得控除は給与をもらうための経費を、受け取った給与から控除できる制度です。
自分の会社から給与を受け取っても控除を受けられるため、課税される所得をさらに圧縮できます。
3.所得税が優遇される退職金
退職金は所得税で優遇されており、退職所得控除という控除を受けた後の金額に2分の1を乗じた金額が退職所得となり、給与所得控除よりもさらに大きな節税ができますが、個人事業主の場合、退職という概念がありません。
4.生命保険
個人事業主には生命保険料控除がありますが、控除額は最大で12万円となっています。
一方、法人では、控除額に上限がなく、支払保険料の全額を損金にできるタイプの生命保険もあります。
5.欠損金の繰越控除期間
欠損金の繰越控除とは、発生した赤字を翌年以降に繰越し、黒字が出たときに相殺することで課税所得を圧縮して所得税(法人税)を少なくすることを言います。
この欠損金の繰越控除期間が個人事業主の場合は3年ですが、法人の場合には10年となります。
法人化によるデメリット
1.赤字でも必ずかかる税金がある
個人事業の場合、赤字の状態では原則、住民税は課税されません。しかし、法人の場合は、均等割で年間7万円程納める必要があります。
2.社会保険への加入義務がある
社会保険の強制適用事業所の適用対象は「事業主を含む従業員1名以上の会社」となるため、法人の場合には社会保険(厚生年金と健康保険)の加入は義務となります。
厚生年金と健康保険の半分は会社で負担することになります。また、労災保険等は全額会社負担となります。
3.法人化するときだけでなく、移転・廃業にも費用がかかる
会社設立にかかる費用は株式会社で30万円程度ですが、法人の場合、本店を移転する際や、廃業の際にも数万円の登記費用がかかります。
4.会計処理が複雑化する
個人事業主と違い、法人の会計処理は複雑で仕訳等を理解するのに手間も時間もかかりますし、会計ソフト導入や自分で処理できなければ職員を雇うためのコストもかかります。
法人化のタイミング
法人化して節税が期待できるのは、相当額以上の収入があるケースに限られます。一般的には1,000万円以上などと言われますが、事業の内容等によりケースバイケースです。
個人事業のままで相続した場合の税負担等との比較を行い、法人化は慎重に検討しましょう。
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