遺言書とは異なる遺産分割を行った事例
「父は、子供同士の仲が良くなかったため、遺産分割でもめると考え、一旦すべて妻に相続させる遺言を残して亡くなりました。
しかし、子供らは、父親の財産をあてにしており、妻は、子供らの生活の生活が楽ではないことを知っていたため、相続人全員が納得できる分け方で遺産分割協議をして、子供たちも財産を相続することになりました。
このように、有効な遺言書があってもそれとは別の遺産分割をしてしまうことに問題は無いのでしょうか。」
遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることができる場合
被相続人が遺言で遺産分割について定めている場合、遺言は被相続人の最後の意思表示であり、最大限尊重されるべきもので、通常はその通りに遺産分割をします。
しかし、遺言は被相続人が単独で作成できるため、遺言者が良かれと思って書いた遺産の分け方が、相続人にとっては逆に望ましくないという場合もあります。
そのため、下記の条件を満たせば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることができます。
- 相続人が遺産分割を禁じていないこと
- 相続人全員が、遺言の内容を知った上で、これと違う分割を行うことについて同意していること
- 相続人以外の人が受遺者である場合には、その受遺者が同意していること
- 遺言執行者がいる場合には、遺言執行を妨げないか、もしくは、遺言執行者の同意があること
・遺言と異なる遺産分割協議と登記
遺産分割の指定をしている遺言がある場合で、不動産について遺言と異なる遺産分割をした場合は、相続開始時に遺言で指定された人のものとなっており、別の相続人が取得することは、相続人間で贈与又は交換をしたと解釈されるため、原則、遺言に沿った「相続」を原因とする所有権移転登記を行い、その後「贈与」又は「交換」を原因とする所有権移転登記を行う必要があります。この場合、登録免許税も二段階分の納付が必要です。
ただし、実務においては、上記のような二段階の移転登記をしないで、直接遺産分割協議による相続登記をする運用がなされることもあります。
・遺言と異なる遺産分割協議を行った場合の相続税・贈与税
相続税の計算においては、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたと考え、通常の遺産分割協議を行った場合の相続税の計算と同じとされています。相続人間で贈与又は交換があったとして贈与税がかかることはありません。
【参考】国税庁:遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm
【参考】国税庁:遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/03.htm
ただし、相続人ではない特定受遺者がいる場合、受遺者が相続人との話し合いで、遺言で指定されている不動産と異なる不動産を取得することになった場合は、譲渡所得税がかかる場合がありますので注意が必要です。