遺産分割がまとまらず、相続税の特例を適用できなかった事例
「遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立せず、いったん民法の規定による相続分に従って財産を相続したものとして相続税の申告をしましたが、未分割の財産については相続税の特例の適用はできないでしょうか。」
相続税の申告期限までに遺産が未分割である場合には、
- 小規模宅地等に対する相続税の課税価格の計算の特例
- 特定計画山林に対する相続税の課税価格の計算の特例
- 配偶者に対する相続税額の軽減
- 農地等についての相続税の納税猶予の特例
- 非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例
等の適用ができません。
1.小規模宅地等に対する相続税の課税価格の計算の特例の不適用
小規模宅地等に対する相続税の課税価格の計算の特例とは、亡くなった方(被相続人)や故人と生活を共にする家族(同一生計親族)の事業用や居住用の宅地等について、一定の要件を満たした場合にその宅地等の評価額を通常の評価額の20%又は50%に相当する価額にすることができるという規定です。
この課税の特例規定は、当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書提出期限までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない宅地等については、その適用がないものとされています。
2.特定計画山林に対する相続税の課税価格の計算の特例の不適用
特定計画山林に対する相続税の課税価格の計算の特例とは、特定計画山林相続人等が、相続又は遺贈により取得した特定計画山林でこの規定の適用を受けるものとして選択をしたもの(選択特定計画山林といいます。)について、当該相続の開始の時から当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書提出期限まで引き続き当該選択特定計画山林のすべてを有している場合等一定の場合には、相続税の課税価格に参入すべき価額は、当該選択特定計画山林の価額に、100分の95を乗じて計算した金額とするという取り扱いです。
この課税の特例規定は、当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書提出期限までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない特定計画山林については、その適用がないものとされています。
3.配偶者に対する相続税額の軽減の不適用
被相続人の配偶者が当該被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、当該配偶者については、算出相続税額(暦年課税分の贈与税額控除額があるときは、それを控除した後の金額)を限度として、次の算式により計算した金額がその配偶者の納付すべき相続税額の計算上、控除されます。
相続税の総額 | × | 下記①と②のうちいずれか少ない金額 |
相続税の課税価格の合計額 |
①課税価格の合計額 × 配偶者の法定相続分(※)
※相続の放棄があった場合にはその放棄がなかったものとした場合における法定相続分とし、計算結果が1億6000万円に満たない場合は、1億6000万円とします。
②配偶者の課税価格
この配偶者に対する相続税額の軽減規定は、当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書提出期限までに、当該相続又は遺贈により取得した財産の全部または一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない場合における当該分割されていない財産は、上記の算式の「配偶者の課税価格」の計算の基礎とされる財産に含まれないものとされています。
ただし、上記の特例には、救済措置が設けられています。相続税の申告書を提出する際に、遺産が分割されていない理由、今後の分割見込み、適用を受けたい特例を記載して「申告期限後3年以内の分割見込書」を所轄の税務署に提出しておくと、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が整った場合、更正の請求を、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に行い、認められれば当初申告・納税した相続税額との差額が還付金として戻ってきます。
また、相続税の申告期限から3年経ってもまだ遺産分割が整わない場合も、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署長の承認を受けたときは、当該財産の分割ができるようになった日として定められた日の翌日から4か月以内に分割し、更正の請求を行えば、その請求が認められた場合も当初申告・納税した相続税額との差額が還付金として戻ってきます。
4.農地等についての相続税の納税猶予の不適用
農業を営んでいた被相続人又は特定貸付け等を行っていた被相続人から一定の相続人が一定の農地等を相続や遺贈によって取得し、農業を営む場合又は特定貸付け等を行う場合には、一定の要件の下にその取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、その取得した農地等について相続人が農業の継続又は特定貸付け等を行っている場合に限り、その納税が猶予されます。
この農地等についての相続税の納税猶予規定は、当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書提出期限までに、当該相続又は遺贈により取得した農地もしくは採草放牧地又は準農地の全部または一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない場合には、その分割されていない農地もしくは採草放牧地又は準農地について、その適用を受けることができないものとされています。
5.非上場株式等についての相続税の納税猶予
認定承継会社の代表権を有していた個人で一定の者(被相続人)から相続又は遺贈により当該承継会社の非上場株式等の取得をした経営承継相続人等が、当該相続に係る相続税の期限内申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該非上場株式等で当該相続税の申告書にこの規定の適用を受けようとする旨の記載があるものに係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、当該相続税の申告書提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該経営承継相続人等の死亡の日まで、その納税を猶予するものとされています。
この非上場株式等についての相続税の納税猶予規定は、当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書提出期限までに、当該相続又は遺贈により取得した非上場株式等の全部または一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない場合には、その分割されていない非上場株式について、その適用を受けることができないものとされています。
4.農地等についての相続税の納税猶予の規定は、相続税の期限内申告書の提出期限までに、その特例対象とする農地等の分割がなされていることが絶対的な要件とされ、5. 非上場株式等についての相続税の納税猶予の規定は、相続税の期限内申告書の提出期限までに、その特例対象とする非上場株式等の分割がなされていることが絶対的な要件とされており、1.~3.の規定のような申告期限から3年以内に分割された場合における特例規定の適用は認められないものとされていますので、留意が必要です。
最初から特例を使い、相続税の負担を抑えるためにも、早くから財産整理や相続人同士の話し合いなど、できることを進めておくことをお勧めします。