相続人に未成年者がいる場合
相続人の中に未成年者がいる場合には、遺産分割協議や相続税の申告書提出などの相続手続きにおいて、代理人が必要となります。
また、相続税の納付にあたって、未成年者は年齢に応じた一定額の控除を受けることができます。
1.特別代理人の選任
未成年者は、単独で法律行為を行うことができず、法律行為を行うには法定代理人(特別代理人)が代理するか、法定代理人の同意が原則として必要です。
そして特別代理人には通常親権者がなります。
しかし、遺産分割協議を行う場合に、親権者と未成年者が共同で遺産を相続する利害対立(互いの利益が相反する)関係にある場合には、たとえ親権者であっても、子である未成年者の代理をすることは、その未成年者の利益を害するおそれがあり、代理をすることはできないとされています。
このような場合、親権者は未成年の子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければ、遺産分割を行うことができません。
未成年者が相続放棄をする場合も、親権者との間に利害対立があります(親権者の相続分が増える)ので、特別代理人の選任が必要です。
特別代理人には、相続人でない親族や弁護士が選任されます。
通常は特別代理人の申立時に、候補者を挙げておきますが、適当な親族等がいない場合には、第三者である弁護士や司法書士などの専門家に頼むこととなります。
特別代理人が選任された後は、特別代理人が未成年の相続人にかわって遺産分割協議書や相続税の申告書に署名・押印します。
相続財産に不動産がある場合には、不動産の相続登記手続きについても特別代理人が未成年者に代わって行います。
下の図の場合ですと、Aの相続人は妻B・長男F・次男Gですが、
次男Gは未成年のため特別代理人が必要となります。
代理人選任の申立者は次男Gの親権者である妻Bが行う場合が多いと思いますが、妻Bも被相続人Aの相続人であるため、次男Gとは利益相反の関係となり、妻Bが特別代理人となることはできません。
この場合、一般的には祖父Cや祖母D、または被相続人Aの妹Eなどに代理人をお願いすることになります。
特別代理人選任の申し立ての手続き方法
親権者や利害関係者などの申立人が、その未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てを行います。
代理人の候補者に問題がなければ特別代理人選任審判書が送付され、代理人が決定します。
選任にかかる費用は、未成年者1人につき収入印紙800円です。
特別代理人選任審判書は、未成年者の代理で手続きを行うときには常に必要となる重要な書類です。
その他の必要書類
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本
- 親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 利害相反に関する資料
- 遺産分割協議書(案)や登記簿謄本など
上記の遺産分割協議書の提出については、合理的な理由がなく未成年者に対して著しく不利な分割案となっている場合には、選任が認めらない可能性もあります。
家庭裁判所に未成年者の特別代理人選任の申立てを家庭裁判所にしてから、代理人が選任されるまで、1か月ほどかかる場合もあります。
特別代理人は、「未成年者1人に対して特別代理人1人」となるため、相続人となる未成年者が複数人いる場合は、その人数分だけ特別代理人が必要となります。
特別代理人を選任せずに、または代理人の権利がない者が代理人として行った遺産分割協議は、未成年の子が成人に達した後に追認しない限り無効となります。
追認しなかった場合には、その遺産分割協議は無効となり、その時点で遺産分割をやり直すことになります。
胎児の場合
胎児は、相続について、「既に生れたものとみなす」とされています。
したがって、胎児も相続権があることになります。
しかし、この規定は、胎児が誕生した際に死亡している場合は適用されませんので、無事に誕生した場合だけ、胎児にも相続権があるということになります。
また、生まれたときに、相続開始時にさかのぼって既に生まれていたものとみなされますので、実際に出生するまでは、胎児を代理して遺産分割協議をすることはできません。
胎児の出生後に遺産分割をする場合であっても、親権者が子を代理して遺産分割協議をすることはできませんので、通常は、特別代理人の選任が必要となります。
2.未成年者控除
相続又は遺贈により財産を取得した者が未成年者であり、下記の適用要件を満たす場合には、その未成年者の納付すべき相続税額の計算上、その者の年齢に応じて一定の金額が控除されます。
これは、未成年者の養育費や生活費の確保、担税力に配慮して設けられている措置です。
適用要件
- 居住無制限納税義務者、非居住無制限納税義務者であること。(納税義務者の区分)
- 法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。(養子縁組により法定相続人となる場合を含みます)
- 相続開始時において20歳未満の者であること。(婚姻をしている者を含みます)
その未成年者が制限納税義務書である場合でも、被相続人がアメリカ国籍または住所を有している場合には日米相続税条約により未成年者控除が適用されます。ただし、無制限納税義務者に適用させる控除額の全額を控除することはできず、一定割合(国内財産の価額÷全世界財産の価額)の限度があります。
未成年者控除はその者が相続を放棄した場合でも、遺贈により財産を取得しているときは適用を受けることができます。
被相続人である特定贈与者よりも先に死亡した相続時精算課税適用者については、未成年者控除の適用はありません。
控除額
10万円×(20歳-相続開始時の年齢)
未成年者の年齢は満年齢で計算され、1年歳に満たない端数の期間は切り捨てます。
例えば、12歳7ヶ月の場合は12歳、19歳11ヶ月は19歳となります。
未成年者の年齢が低いほど控除額は大きくなり相続税の負担が軽くなります。
胎児の場合の控除額は200万円となります。
(令和4年4月1日以降の相続又は遺贈については、180万円)
未成年者が二度以上相続人となることがあります。
その場合には複数の相続にわたり未成年者控除の適用が可能です。
ただし、最初に未成年控除を使用した際に計算した控除額が限度となり、2度目以降の相続では、その限度額から実際に控除を適用した金額を差し引いた残額がその後の相続で控除の適用を受けることができる金額となります。そのため相続の回数を重ねる度に控除できる金額が減少していきます。
2度目以降の相続の場合、具体的には次のうちどちらか低い金額が控除額となります。
① (20歳-今回の相続開始時の年齢)×10万円
② (20歳-最初の相続開始時の年齢)×10万円-過去に未成年者控除を受けた金額
未成年者控除を適用するためには、相続税申告書の第6表「未成年者控除・障害者控除額の計算書」を申告書とともに税務署へ提出することが必要になります。
扶養義務者から控除する場合
未成年者の納付すべき相続税額の計算に当たり、上記算式により算出した金額を未成年者本人の相続税額から控除しきれないときは、その控除しきれない金額を、その未成年者の扶養義務者の納付すべき相続税額から控除することができます。
未成年者が財産を取得しており、その未成年者の未成年者控除適用前の税額がゼロである場合には、未成年者控除額の全額を扶養義務者の相続税額から控除することが可能です。
扶養義務者が2人以上いる場合の控除不足額は、扶養義務者全員の協議、または、扶養義務者の算出相続税額の割合で按分する方法によります。
扶養義務者とは、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹、3親等内の親族のうち家庭裁判所が扶養義務者と認めた者をいいます。
3親等内の親族の例(叔父、叔母、甥、姪の関係は3親等の親族となる)
扶養義務者からの控除については、同居などは要件となっていないため、別居している場合でも控除額を受けることができます。
ただし、扶養義務者が控除を受けた金額も未成年者控除額の総額に含まれるため、1度目の相続のときに控除しきれなかった未成年者控除額を扶養義務者からすべて控除すると、2度目の相続の際には未成年者本人が控除を適用できなくなってしまいます。
しかし、未成年者控除は20歳を迎えると利用できなくなるため、それまでに発生するかわからない2度目以降の相続のために扶養義務者から控除せず残額を残と無駄になってしまうこともあります。最初の相続の時の年齢などをふまえて、扶養義務者から控除をするかどうか検討する必要があります。
3.法律の改正
民法の改正によって成人となる年齢が20歳から18歳へと引き下げられることが決定しました。この民法改正に伴い、相続税法における未成年者控除の適用年齢も引き下げられることとなりました。
令和4年4月1日以降に開始する相続又は遺贈について適用されます。