節税対策で入った保険金がみなし贈与と認定される事例
あるご夫婦で、夫の財産を圧縮するため、夫の退職金を原資に、妻が被保険者及び受取人となっている個人年金保険に加入されている方がいらっしゃいました。妻は、年金受け取り開始時から所得税の申告をしていましたが、贈与税の申告については全く頭にありませんでした。
しかし、この事例は、夫から妻に対して年金支給開始時に年金受給権が贈与されたものとみなされ、贈与税が課税されます。
みなし贈与とは
みなし贈与とは、財産を渡す側の「あげます」という意思と、受け取る側の「もらいます」という双方の合意に基づき、相手に無償で財産をあげる民法上の贈与には該当しないが、その経済効果が実質的に贈与を受けたのと同様な場合に、税負担の公平を図るために贈与税を課税するものであるため、利益を受け取る側は自分が贈与税を支払わなくてはいけないと気付かない場合が多いのです。
保険関係では、保険料負担者と満期保険金等の受取人が異なる生命保険金や、保険料負担者と個人年金の受取人が異なる定期金等が該当します。
個人年金保険等、定期金給付契約の給付事由の発生により定期金を受け取ることとなった場合に、その定期金の受取人以外の者がその保険料の全部または一部を負担していた場合には、その給付事由発生時においてその受取人が支給を受ける権利のうち受取人以外の者が負担した保険料に該当する部分は実質的に保険料を負担した者から贈与によって取得したものとみなして贈与税が課税されることになります。
上記のように夫が契約者として個人年金保険に加入し、妻がその契約に係る年金の受取人であるような、保険料の実質負担者と受取人が異なる場合がこれに該当します。
相続税の計算式
具体的な贈与税の対象となる金額は次の式によります。
年金受給権の評価額 | × | 受取人以外の者が負担した保険料の額 | = | 贈与により取得したものとみなされる金額 |
給付事由発生時までの払込保険料総額 |
※年金受給権の評価額
次のいずれか多い額が年金受給権の評価額となります。
(1)解約返戻金の額
(2)年金に代えて一時金の給付を受けられる場合は一時金の金額
(3)予定利率等をもとに算出した金額
(予定利率とは、生命保険の保険料の計算等に用いられる基礎率の1つです)
つまり、将来受け取る予定の年金総額の割引現在価値を評価額として課税の対象にするイメージです。
暦年贈与の贈与税の税率は一般的に相続税の税率より高く、保険料を支払った人(契約者)と満期保険金を受け取る人が異なる場合、親子間、夫婦間のやり取りでも「贈与税」の課税対象となります。心配な方は契約形態を確認してみましょう。
ただし、契約者を保険料負担者から受取人に変更しても、変更時には特に税金はかかりませんが、実質的負担者は変わっていないので、保険金受取時や年金支給開始時、解約時(解約返戻金がある場合)に贈与税がかかることに変わりはありません。
保険金等受取時に贈与税の課税対象とならないように、毎年保険料相当の現金を契約者である相続人に贈与することは認められます。
贈与の注意点
以下の4①~➃に注意して贈与をしてください。➃の贈与の事実が認定できるものとしては、例えば、贈与者(父親等)名義の預金口座から日常的に使っている受贈者(契約者である子等)名義の預金口座に保険料相当額を振り込んでもらい、契約者名義の預金口座から保険料を振り替えること等が考えられます。
【引用】国税庁事務連絡 生命保険料の負担者の判定について(昭和58年9月)
1.被相続人の死亡又は生命保険契約の満期により保険金等を取得した場合若しくは保険事故は発生していないが保険料の負担者が死亡した場合において、当該生命保険金又は当該生命保険契約に関する権利の課税に当たっては、それぞれ保険料の負担者からそれらを相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなして、相続税又は贈与税を課税することとしている。(相法3①一、三、相法5)
(注)生命保険金を受け取った者が保険料を負担している場合には、所得税(一時所得又は雑所得)が課税される。
2.生命保険契約の締結に当たっては、生計を維持している父親等が契約者となり、被保険者は父親等、受取人は子供等として、その保険料の支払いは父親等が負担しているというのが通例である。
このような場合には、保険料の支払いについて、父親等と子供等との間に贈与関係が生じないとして、相続税法の規定に基づき、保険事故発生時を課税時期としてとらえ、保険金を受け取った子供等に対して相続税又は贈与税を課税することとしている。
3.ところが、最近、保険料支払能力のない子供等を契約者及び受取人とした生命保険契約を父親等が締結し、その支払保険料については、父親等が子供等に現金を贈与し、その現金を保険料の支払に充てるという事例が見受けられるようになった。
4.この場合の支払保険料の負担者の判定については、過去の保険料の支払資金は父親等から贈与を受けた現金を充てていた旨、子供等(納税者)から主張があった場合は、事実関係を検討の上、例えば、①毎年の贈与契約書、②過去の贈与税申告書、③所得税の確定申告書等における生命保険料控除の状況、④その他贈与の事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られたものは、これを認めることとする。