相続財産から生ずる収益の取扱い
遺産分割によって各相続人が取得した財産は、相続開始時にさかのぼって、各相続人が被相続人から直接相続したこととなります。
では、その相続財産から生ずる収益(たとえば賃貸不動産から生ずる家賃収入など)については、遺産分割が確定するまでの間どのように取り扱うのでしょうか。
遺産分割が確定していない場合、その相続財産は各相続人が法定相続分に応じて共有しているものとされ、共有状態にある相続財産から生ずる収益は、各相続人がその法定相続分に応じて取得することとなります。
(単独分割債権)
つまり、賃料債権は、不動産を相続する者が取得できるものではなく、法定相続人が法定相続分に従って取得することになるのです。
家賃収入の場合の具体例
死亡した被相続人Aは賃貸マンションを所有しており、5月に死亡しました。
その年の11月に遺産分割協議がまとまり、賃貸マンションは長男Dが取得することになりました。
1.相続開始日までの家賃収入
被相続人Aの死亡した5月分までの家賃収入は、被相続人Aの相続財産として取り扱われます。
家賃は前払いで受け取っている場合が多いと思います。
この場合は、既に相続財産である預貯金等に5月分までの家賃収入が含まれていることになり、遺産分割協議においてその預貯金の分割について話し合い、誰が相続するかを決めます。
もし、後払いや未収のままになっていて相続開始時点でまだ受け取っていない家賃がある場合には、未収家賃として、こちらも遺産分割協議の対象となりますので、話し合いにより誰が相続するかを決めます。
また、この5月分までの家賃収入は被相続人の収入ですので、被相続人の所得として確定申告をする必要があります。
亡くなった被相続人Aが確定申告することはできませんので、相続人が代わって被相続人Aの確定申告を行います。これを準確定申告と言います。
準確定申告は被相続人の死亡から4ヶ月以内に申告・納税をしなければなりません。
相続税の「死亡から10ヶ月以内」という申告期限よりも早くに提出が必要となるため、提出が遅れないよう注意が必要です。
- 令和3年現在、所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告については、提出期限の個別延長が認められています。
新型コロナウイルス感染症の影響により一般に、期限(令和3年4月15日(木))までに申告・納付等することができないと認められるやむを得ない理由がある場合には、所轄税務署長に申請し、その承認を受けることにより、その理由がやんだ日から2か月以内の範囲で個別指定による期限延長が認められることになります。 例えば、新型コロナウイルス感染症の影響により期限までに所得税等の申告・納付ができなかった方が、令和3年4月30日(金)に申告・納付等ができる状況になった場合には、令和3年4月30日(金)から2か月以内(令和3年6月30日(水)まで)に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出していただければ所轄の税務署長が指定した日(令和3年4月30日(金)から2か月以内)まで期限が延長されます。 |
※国税庁ホームページより
2.遺産分割協議が成立した日以降の家賃収入
遺産分割協議がまとまった11月以降の家賃収入についてです。
遺産分割協議の成立後の収入については、その相続財産を取得した相続人が、その相続財産から生ずる収入を取得することになります。
具体例では、11月以降の賃貸マンションの家賃収入は、賃貸マンションを相続した長男Dの収入となり、この家賃収入について長男Dは確定申告をしなくてはなりません。
これまでずっとサラリーマンで、確定申告などは無縁だったという方も、賃貸マンションを相続したら、その家賃収入およびそれに関する経費(建物の維持管理費、固定資産税や借入金返済の利息など)について、毎年の確定申告が必要となります。
もし、賃貸マンションを長男Dと長女Cが2分の1ずつ相続することになった場合には、家賃収入・その経費について、長男Dと長女Cが2分の1ずつそれぞれ確定申告をします。
3.相続開始日から遺産分割協議が成立する日までの家賃収入
では、遺言がなく遺産分割協議もまとまっていない6月~10月の家賃収入はどのように取り扱うのでしょうか。
結論としては、各相続人がその法定相続分に応じて取得します。
民法では、「遺産分割は、相続開始時にさかのぼってその効力を生ずる」と定められています。
今回の具体例では、被相続人Aが死亡した時点で長男Dが賃貸マンションを相続したことになるため、その後に生じた賃料もすべて長男Dが相続するというように考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続開始後から遺産分割協議が成立する前の賃料債権は誰のものなのかという点については、最高裁の判例があります。
相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生じる賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。
各共同相続人が相続分に応じて賃料債権を確定的に取得することは、後になされた遺産分割の遡及効による影響を受けない。(最判平成17年9月8日) |
つまり、遺産である賃貸マンションから生じた相続開始後の家賃収入は、実際に遺産分割協議が成立するまでは、法定相続分の割合で各相続人の共有状態となっていますので、その期間に発生した賃料収入は、各相続人がその法定相続分の割合に応じてそれぞれ単独で取得するということです。
ですから、この間に法定相続分に応じて各相続人が取得した収益については、各相続人がそれぞれ確定申告を行い、申告・納税を行います。
今回の具体例の場合、相続開始から遺産分割までに発生した家賃収入は、妻が2分の1、長男Dと長女Cが4分の1ずつ、法定相続分に従って取得することになります。
なお、その後、遺産分割協議が成立し、その賃貸マンションの相続人が長男Dに確定したとしても、その効果は相続財産にのみ影響するもので、相続財産から生ずる収益には影響を与えませんので、相続開始時にさかのぼって家賃収入が長男Dのものになるということはありません。
よって、各相続人の所得について、分割の確定による修正申告・更正の請求は行いません。
もし、この共有状態となっている間に、家賃収入を独り占めしている者がいる場合には、家賃収入の不当利得金請求または損害賠償請求といった民事訴訟手続をとることになります。
法律上の相続財産から生ずる収益の取扱いは上記の通りですが、実際には、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議のなかで、相続財産から生ずる収益の取得者を決めることも可能です。
その場合、相続開始後に生じた家賃収入等を含めて遺産分割協議をします。
「相続開始後に各遺産につい発生した収益及び費用は、各遺産の相続人が相続及び承継するものとする。」
などの文言を遺産分割協議書に入れることにより、その賃貸不動産を相続した相続人が単独で家賃収入等を相続することができ、所得税の確定申告をすることができます。
ただし、確定申告期限までに遺産分割協議が成立していなければ、原則的な取り扱いとなり、法定相続分に応じて各相続人が確定申告をすることとなります。
青色申告の申請をお忘れなく!
相続した不動産の家賃収入等に関する確定申告に関しての注意点に、青色申告の申請があります。
税法上の優遇制度の適用を受けるためには、青色申告が要件となっているものが多くあります。
被相続人が青色申告を行っていたとしても、相続人にはその「青色申告の承認」は相続されません。つまり、賃貸不動産などを相続した相続人は、新たに青色申告の承認申請をしなければなりません。
この青色申告を申請する期限は、通常の場合、青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日(非居住者の場合には事業を国内において開始した日)から2月以内。)に提出します。
なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
ただし、青色申告の承認を受けていた被相続人の事業を相続により承継した場合は、相続開始を知った日(死亡の日)の時期に応じて、それぞれ次の期間内に提出しなければなりません。
- 死亡の日が1月1日~8月31日までの場合・・・死亡の日から4か月以内
- 死亡の日が9月1日~10月31日までの場合・・・その年の12月31日まで
- 死亡の日が11月1日~12月31日までの場合・・・翌年の2月15日まで
相続人が新たに事業を始める場合には、あわせて開業届の提出も必要となります。