相続財産の寄付について
相続財産の寄付については、被相続人による寄付と、相続人による寄付の2パターンがあります。
1.被相続人による寄付の場合
被相続人による寄付には
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- 遺言書による寄付(遺贈)
- 贈与契約による寄付(死因贈与)
の2種類があります。
被相続人はこれら2つの手段を使うことで、寄付先の施設・団体に寄付ができ、条件を満たせば、相続税の特例を適用することができます。
遺言により財産を渡すことを遺贈といいますが、遺贈は、親族や知人のほか、法人に対しても行うことができます。
■遺言書による寄付
遺言書による寄付「遺贈」とは、遺言によって財産の全部または一部を、特定の団体などに寄付することをいいます。
遺言による寄付により財産を遺贈した場合には、その寄付を受けた団体などの分類によって相続税・所得税・法人税が課税されるかどうかが異なります。
(1)遺言書による寄付の相手が株式会社などの普通法人
(持分の定めのある社団である医療法人を含みます)などの場合
遺贈した被相続人の課税関係
法人に対し資産の遺贈が行われた場合には、時価でその資産の譲渡がされたものとみなされます。
現金の遺贈の場合、譲渡益は発生しませんので所得税はかかりませんが、不動産等の財産で譲渡益が生じる場合には所得税がかかります。(みなし譲渡所得課税)
そのため、遺贈者は譲渡所得の申告が必要となりますが、その死亡により遺言の効果が生じることもあり遺贈者は亡くなっていますから、遺贈者の相続人が相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に準確定申告を行い、被相続人の所得税を納税しなければなりません。
譲渡益がある場合とは、譲渡時の適正時価がその財産の取得価額よりも高い場合をいいますが、不動産の取得価額が不明な場合にはその適正時価の95%に対して所得税がかかるため注意が必要です。
所得税の税率は15.315%(長期一般の場合)で、住民税は課税時期である翌年1月1日に納税義務者である被相続人が存在しないため課税されません。
遺贈を受けた法人の課税関係
遺贈を受けた会社等に、相続税は課税されませんが、受贈益について法人税が課税されます。
なお、その会社が被相続人の同族会社であって、遺贈により株式の価額が増加する場合には、その増加額について、被相続人から株主への遺贈があったものとして、株主に相続税がかかります。(みなし遺贈)
(2)遺言書による寄付の相手が人格のない社団または財団の場合
人格のない社団等とは、学校のPTA、研究会やクラブ、労働組合、マンションの管理組合など、法人ではないがそれと同様の活動をおこなっている団体のことをいいます。
人格のない社団等については、法人ではありませんが、課税の公平の観点から、収益事業に対しては法人税、消費税、印紙税などが課税されます。
遺贈した被相続人の課税関係
人格のない社団等に対して、遺言書による資産の遺贈が行われた場合には、普通法人の場合と同様に、時価でその資産の譲渡がされたものとみなして所得税がかかります。
現金の遺贈の場合、所得税は発生しませんが、不動産等で譲渡益が発生する場合には所得税が課税されますので注意が必要です。
遺贈を受けた人格のない社団等の課税関係
人格のない社団等に対する遺贈の場合には、人格のない社団等を個人とみなして相続税が課されます。このとき、人格のない社団等は被相続人の相続人でないため、相続税額が2割加算されることとなるため注意が必要です。
ただし、その人格のない社団等が公益事業を行う場合で、公益事業用財産を遺贈した場合には、その財産は非課税となります。
(3)遺言書による寄付の相手が持分の定めのない法人の場合
持分の定めのない法人とは一般社団法人、一般財団法人、学校法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人、宗教法人、持分の定めのない医療法人などをいいます。
遺贈した被相続人の課税関係
持分の定めのない法人に、遺言書による資産の遺贈が行われた場合には、普通法人・人格のない社団等の場合と同様に、時価でその資産の譲渡がされたものとみなして所得税がかかります。
現金の遺贈の場合、所得税は発生しませんが、不動産等で譲渡益が発生する場合には所得税が課税されますので注意が必要です。
ただし、これらの資産を持分の定めのない公益法人等に遺贈した場合において、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています。(租置法40条)
(注)非課税制度の対象となる公益法人等とは、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(法人税法に掲げる一般社団法人又は一般財団法人のうち、一定の要件を満たすもの)及びその他の公益を目的とする事業を行う法人(社会福祉法人、学校法人、更生保護法人、宗教法人や特定非営利活動法人など)です。
国税庁の承認を受けるためには、寄附の日から4か月以内(ただし、寄附が11月16日から12月31日までの間に行われた場合は、寄附をした年分の所得税の確定申告書の提出期限まで)に申請書を提出しなければなりません。
遺贈を受けた持分の定めのない法人の課税関係
持分の定めのない法人に対する遺贈は原則として課税されません。
ただし、その遺贈が、被相続人の親族等の負担する相続税を減らす目的で行われたものである場合には、税務署から相続税の節税目的と判断され、その持分の定めのない法人を個人とみなして相続税が課税されます。
■死因贈与による寄付
死因贈与とは、財産を渡す人(贈与者)と財産を受け取る人(受贈者)の間で、「贈与者が死亡した時に、事前に指定した財産を受贈者に贈与する」という贈与契約を結ぶことを言います。
被相続人が生前に財産を寄付する旨を寄付先に伝え、被相続人が死亡した場合にその寄付(贈与)の効力が発生します。
死因贈与は、遺贈書作成のような方式にとらわれずに遺贈と同じ効果が期待でき、贈与税でなく、遺贈に準じたものとして相続税が課税されます。
遺言書による寄付が一方的に行う単独行為(寄付を受ける者がその寄付を受け取らないことも可能)なのに対して、死因贈与は双方の合意があってはじめて成立する契約です。
2.相続人による寄付の場合
財産を受け取った相続人は、自身の意思で相続財産を寄付することができます。
相続人による寄付の場合は原則として相続税が課税されますが、国・地方公共団体・公益法人等への寄付で一定の要件を満たせば非課税制度の適用を受けることができ、これは相続又は遺贈により取得した財産のどちらでも適用が可能です。
(1)普通法人に対する寄付
寄付をした相続人の課税関係
法人に対し相続財産の寄付が行われた場合の課税関係について。
まずその相続財産について相続税が課税されます。
続いて、時価でその相続財産を法人に譲渡されたものとみなして譲渡益が発生する場合には所得税が課税されます。
不動産等の相続財産を法人に寄付する場合で、その不動産の取得価額が不明な場合などには譲渡益が生じ、その財産の時価の95%に対して所得税がかかります。(みなし譲渡所得課税)
寄付を受けた法人の課税関係
寄付を受けた会社等に、相続税は課税されませんが、受贈益について法人税が課税されます。
なお、その会社が同族会社であって、その寄付により株式の価額が増加する場合には、その増加額について、相続人から株主への贈与があったものとして、株主に贈与税がかかります。(みなし贈与)
(2)国、地方公共団体、特定の公益法人等に対する寄付
寄付をした相続人の課税関係
国、地方公共団体、特定の公益法人等に対し相続財産の寄付を行った場合の課税関係について。
その寄付により、相続税及び贈与税の負担が不当減少することがないこと、設立のための寄付でないことなど、一定の要件を満たせば、相続税は非課税となります。
この非課税制度の適用を受けるためには、相続税の申告期限(被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内)までに、寄付の手続きおよび相続税申告を終えなければなりません。また、その申告書に寄付をした財産の明細書等を添付する必要があります。
寄付をしたことにより、相続税が基礎控除額以下になった場合にも、相続税申告書の提出は必要です。
相続財産を地方公共団体に寄付した場合には、相続税の非課税と、ふるさと納税による所得税・住民税の寄付金控除の両方の適用を受けることが可能です。
なお、寄付をしてから2年以内に
①寄付先が公益事業者でなくなった場合
②寄付先が寄付を受けた財産を公益事業以外に供した場合
これらの事由が発生すると、寄付をした金額が相続税の課税対象に含まれることになり、修正申告が必要となるため、その財産の寄付をした日から2年を経過した日の翌日から4月以内にその修正申告を行わなければなりません。
寄付が完了したからといって、寄付をした日から2年以内は、まだ相続税が課税される可能性がなくなったわけではないので注意が必要です。
次に、時価でその相続財産を特定の公益法人等に譲渡されたものとみなして、譲渡益が発生する場合には所得税が課税されます。
ただし、その寄付が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています。(租置法40条)
寄付を受けた法人の課税関係
寄付を受けた特定の公益法人等に対して、相続税は課税されません。
ただし、その寄付によって相続人やその親族の相続税または贈与税の負担が不当に減少する場合には、その法人を個人とみなして贈与税が課税されます。
(3)(2)以外の公益法人に対する寄付
寄付をした相続人の課税関係
特定の公益法人以外の公益法人に対して相続財産の寄付が行われた場合の課税関係について。
まずその相続財産について相続税が課税されます。
次に、時価でその相続財産を特定の公益法人等に譲渡されたものとみなして譲渡益が発生する場合には所得税が課税されます。
ただし、その寄付が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています。(租置法40条)
寄付を受けた法人の課税関係
寄付を受けた特定の公益法人等に対して、相続税は課税されません。
ただし、その寄付によって相続人やその親族の贈与税の負担が不当に減少する場合には、その法人を個人とみなして贈与税が課税されます。
3.遺留分に注意
相続財産を寄付する場合に注意しなければならないのは、遺留分の問題です。
遺留分とは、一定の法定相続人に認められる最低限保証された遺産取得分のことをいい、たとえば配偶者の遺留分は遺産全体の4分の1です。
(被相続人の兄弟姉妹が相続人である場合には、兄弟姉妹に遺留分はありません)
相続財産の寄付にあたり、遺留分を侵害していなかった場合でも被相続人が財産を寄付するということは、相続人がもらえる財産が減ることになりますので、被相続人による「遺贈」又は「死因贈与」による寄付の場合には、あらかじめ家族への説明をしている方が良いでしょう。
寄付する財産について
金銭以外の不動産や動産をその市町村やNPO法人などへ寄付しようとする場合には、せっかく寄付してもらっても、その不動産の立地や広さ、建物の状態などの理由によって、その団体が有効活用できる確率が高くないため、そもそも寄付を断られる可能性が高いです。
そのうえ、売却もできない場合には、逆に固定資産税などの税金の負担が発生してしまい、寄付先にはマイナスでしかない状態となってしまう場合もあります。
これらの理由から、換金してからの寄付をお願いする団体が多いのが現実ですが、相続人による換金後の寄付については、相続税の非課税の適用を受けることができないため、注意が必要となります。