相続税の非課税財産
相続税が課税されない財産についてはいくつかありますが、相続税の節税につながるものもあります。
相続税がかからない非課税財産のうち主なものは下記のとおりです。
- 墓地、墓石、仏壇、仏具など
- 国や地方公共団体へ寄付した財産(公益事業用財産)
- 相続人が受け取った生命保険金等のうち一定の金額
- 相続人が受け取った退職手当金等のうち一定の金額
- 心身障害者共済制度の給付金の受給権
- 国などに寄付をした相続財産
- 皇室経済法の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物
1.墓地、墓石、仏壇、仏具など
墓地や墓石、仏壇、仏具、仏像、祭具、神棚やこれらに準ずるもので、日常礼拝の用に供されるものには、相続税が課税されません。
ただし、骨とう的価値があるものや、商品・投資用として所有しているもの、純金製の極端に高価なものなどは非課税財産とならず、相続税がかかります。
「庭内神し」の敷地については、平成24年の判決により非課税財産に追加されました。
2.国や地方公共団体へ寄付した財産(公益事業用財産)
公益事業を行う一定の個人や人格のない社団等が、被相続人から相続や遺贈によって取得した財産で、その公益を目的とする事業に使用されることが確実なもの。
人格のない社団等とは、学校のPTA、研究会やクラブ、労働組合、マンションの管理組合など、法人ではないがそれと同様の活動をおこなっている団体のことをいいます。人格のない社団等については、法人ではありませんが、課税の公平の観点から、収益事業に対しては法人税、消費税、印紙税などが課税されます。
非課税となる例としては、幼稚園の運営事業を営む個人が相続により取得した園舎の敷地で、その事業の用に供することが確実なものなどが該当します。
3.相続人が受け取った生命保険金等のうち一定の金額
全ての相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません)が受け取った保険金の合計額のうち、次の算式によって計算した非課税限度額に達するまでの金額は相続税が課税されません。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
具体例を見てみましょう。
被相続人は長男D・長女Cを受取人として、それぞれ1,000万円ずつ保険を契約していました。
非課税の適用額は、まず非課税限度額を計算するところからはじめます。
この場合、被相続人Aの法定相続人は妻B・子2人の3人ですから、限度額は500万円×3人で1,500万円です。
次に非課税限度額を受け取った保険金の金額で按分します。
今回は2分の1ずつの受け取りですので、1,500万円×1/2=750万円が長男D・長女Cの非課税適用額となり、各自が受け取った保険金1,000万円のうち、相続税が課税されるのは非課税控除後の250万円となります。
複数の保険契約がある場合には、その受取った保険金の合計額で、非課税限度額を按分します。
また、死亡保険金と一緒に振り込まれる配当金や前納保険料にも非課税枠が使えます。
- 法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。法定相続人の中に養子がいる場合、法定相続人の数に含めることができる養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までとなります。
この非課税制度は相続人しか適用ができないため、孫や子の配偶者などを受取人にしている場合には非課税の適用を受けることができないため注意が必要です。
ただし、子が既に亡くなっていて孫が代襲相続人となっている場合には、その孫は非課税の適用を受けることができます。
また、配偶者を受取人としている生命保険契約について、受取人を子供に変更することで、相続税が節税できる場合があります。
4.相続人が受け取った退職手当金等のうち一定の金額
被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(これらを「退職手当金等」といいます。)で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの給付を受ける場合には、その退職手当金等は相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。
全ての相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません)が受け取った被相続人の退職手当金等の合計額のうち、次の算式によって計算した非課税限度額に達するまでの金額は相続税が課税されません。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
死亡後3年以内に支給が確定したものとは次のものをいいます。
- 死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
- 生前に退職していて、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
弔慰金のうち一定の金額(業務上の死亡:被相続人の死亡当時の普通給与月額×3年分、業務外の死亡:被相続人の普通給与月額×6月分)は上記非課限度額に関係なく、非課税となります。
5.心身障害者共済制度に基づき支給される給付金の受給権
地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が取得する、心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金の受給権。
被相続人(心身障害者の保護者)が生前中に共済に加入し、掛金を負担し、その者が死亡した際に、残された心身障害者に対して年金を支払うというものです。
これは生命保険金等(みなし財産)に該当するもので、一般的な年金の受給権は、相続税や所得税の課税対象になりますが、この制度の受給権についてはその性質上、非課税財産とされています。
6.国などに寄付をした相続財産
相続又は遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに国、地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人等に対して寄付をした場合において、一定の要件を満たす場合には、その財産は相続税が課税されません。
国、地方公共団体、特定の公益法人等に対し相続財産の寄付を行った場合、その寄付により、相続税及び贈与税の負担が不当減少することがないこと、設立のための寄付でないことなど、一定の要件を満たせば、相続税は非課税となります。
この非課税制度の適用を受けるためには、相続税の申告期限(被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内)までに、寄付の手続きおよび相続税申告を終えなければなりません。また、その申告書に寄付をした財産の明細書等を添付する必要があります。
寄付をしたことにより、相続税が基礎控除額以下になった場合にも、相続税申告書の提出は必要です。
相続財産を地方公共団体に寄付した場合には、相続税の非課税と、ふるさと納税による所得税・住民税の寄付金控除の両方の適用を受けることが可能です。
なお、寄付をしてから2年以内に
①寄付先が公益事業者でなくなった場合
②寄付先が寄付を受けた財産を公益事業以外に供した場合
これらの事由が発生すると、寄付をした金額が相続税の課税対象に含まれることになり、修正申告が必要となるため、その財産の寄付をした日から2年を経過した日の翌日から4月以内にその修正申告を行わなければなりません。
寄付が完了したからといって、寄付をした日から2年以内は、まだ相続税が課税される可能性がなくなったわけではないので注意が必要です。
また、時価でその相続財産を特定の公益法人等に譲渡されたものとみなして、譲渡益が発生する場合には所得税が課税されます。
ただし、その寄付が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています。(租置法40条)
7.皇室経済法の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物
相続税法においては皇嗣(皇太子)が皇位とともに受け継ぐ由緒ある物には、相続税を課さないと定めています。
具体的には三種の神器と呼ばれるものを指します。
皇位継承により受け継がれる由緒ある物は、自由に処分できないなどの理由から非課税とされます。