二世帯住宅に係る小規模宅地等の特例の適用
小規模宅地等の特例の特定居住用宅地等による相続財産の評価減については、誰がその宅地を取得し、生前にどのような生活をしていたかによって適用できるかどうかが変わってきます。
この評価減の制度を適用できるかどうかによって、相続税が大きく変わってきます。
特定居住用宅地等の特例は、被相続人やその被相続人と生計を同じくしていた親族が居住していた宅地について、その家と生活基盤の確保のために、家の敷地である土地について330㎡まで80%の評価減ができるという制度です。
原則としてこの特定居住用宅地等の特例は、配偶者と同居親族のみ適用可能ですが、二世帯住宅の場合の「同居」の取扱いについては、どのようになるのでしょうか。
親世帯と子世帯が独立して生活できる、玄関は別・中で行き来できないタイプの二世帯住宅は、お互いのプライバシーを守りつつ、できる範囲で支え合うことができ、近年このタイプの二世帯住宅が増えています。
二世帯住宅の場合の特定居住用宅地等の適用については、構造上区分されている建物(各世帯の利用部分間で行き来ができない独立分離した建物)かどうか、建物の登記形態をどのようにするかにより、取扱いが異なります。
今回は、建物の登記形態と小規模宅地等の特例の取扱いの関係について説明します。
区分所有登記がされていない場合
1.内部で行き来できる建物
二世帯住宅について区分所有登記がされておらず、建物内部で親世帯の居住スペースと、子世帯の居住スペースの行き来が可能となっている建物の場合
実際の生活形態が独立していたとしても、同居しているものと認められ、小規模宅地等の特例による評価減減を受けることができます。
この場合、被相続人の居住部分に対応する宅地だけでなく、子世帯の居住部分に対応する宅地についても減額を受けることができます。
「区分所有登記」とは?
通常の建物は、1階と2階を別々の人が所有するという登記はできませんが、区分所有建物ならそれが可能です。
区分所有建物とは、一棟の建物の中に複数の住宅・事務所・店舗などがあり、その一部を独立所有することができる建物をいいます。
区分所有建物は、各部屋ごとに構造上・利用上の独立性を有します。
分譲マンションのように、1棟の建物の中に複数の住宅があり、それぞれの住宅等を1個の建物として登記することを区分所有登記といいます。
二世帯住宅の場合は、親子がそれぞれの居住部分について、それぞれの名義で登記することを指します。
2.内部で行き来できない建物
二世帯住宅について区分所有登記がされていないものの、玄関は完全に別々となっており、建物内部における通路などはなく、子世帯が親世帯の居住スペースに行くには、一体外に出て移動しなければならない様式の建物の場合です
生計を同じくしない完全分離型の二世帯住宅であっても、建物について区分所有登記されていない場合には、子は親(被相続人)の居住の用に供されていた建物に居住していた親族として取り扱い、その建物の敷地については、親世帯・子世帯の両方の居住部分に対応する土地について、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
区分所有登記されている場合
二世帯住宅の玄関が別で、内部の行き来ができず、登記上も区分所有登記がされていて、親世帯の住居部分と、子世帯の住居部分が独立した不動産として建物登記されている場合です。
この場合には、親世帯の居住していた部分に対応する宅地しか特例の対象となりませんので、注意が必要です。
区分所有登記することによって、二世帯住宅は2戸の住宅とみなされるため、親世帯と子世帯は、それぞれ別の不動産に居住しているものとされ、同居しているとは認められません。
ですから、親(被相続人)が亡くなった際に、子がその建物の敷地である宅地を取得したとしても、原則として小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
相続税においては小規模宅地等の特例の適用を受けることができませんが、区分所有登記をすることによって、親世帯と子世帯のそれぞれが住宅ローン控除や固定資産税その他各種減税措置を受けることができるため、所得税その他の節税効果があります。
親世帯の財産額から相続税がかかりそうにない場合は、区分所有登記する方が節税になる場合もあります。
ただし、所有した建物部分については毎年、その所有部分に固定資産税がかかりますので、その点も考慮して区分所有登記にするかどうか判断してください。
ちなみに二世帯住宅で区分所有登記を行う場合は、住宅が完全分離型(玄関が別で、内部の行き来不可)のタイプでなければなりません。
玄関は別でも建物内部でそれぞれの居住空間を行き来できる間取りである場合、鍵をかけられる扉で通路を仕切ってそれぞれの居住空間を完全に分離できることなどが求められます。
二世帯住宅で小規模宅地等の特例を適用する場合の例
父の相続発生時…母と子が1/2ずつ土地を相続
母:200㎡(2,500万円)⇒ 2,500万円 ただし配偶者の税額軽減により相続税ゼロ
子:200㎡(2,500万円)⇒ 小規模宅地等の特例適用 2,000万円評価減
母の相続発生時…子が母の持分1/2を相続
子:200㎡(2,500万円)⇒ 小規模宅地等の特例適用 2,000万円評価減
2回の相続で合計4,000万円の評価減となり、土地の評価額は実質1,000万円に!
登記の種類により特例適用できるかどうか異なる
構造上行き来ができない二世帯住宅の場合は、建物の登記の形態によって小規模宅地等の特例の適用の取扱いが異なります。
登記の形態には単独登記、共有登記、区分所有登記があり、この登記形態が特例適用範囲のポイントとなります。
単独登記
二世帯住宅を一戸の住宅として考え、親か子のどちらかの名義で登記を行います。
登記費用が安くすみます。
たとえば、子が購入資金を出したのに親の単独登記にした場合には、子から親にその資金の贈与があったものとみなされて贈与税がかかります。
共有登記
二世帯住宅を一戸の住宅として考え、その一戸の住宅を親と子が共有で所有するものとして登記をします。
共有の割合は住宅の取得にかかる資金を支払った割合とするのが一般的です。
住宅ローン控除について、親と子がそれぞれ適用を受けることができます。
区分所有登記
二世帯住宅を完全に別々の建物として考え、親と子がそれぞれの名義で登記を行います。
完全分離型の二世帯住宅の場合のみ区分所有登記が可能です。
登記手数料など登記にかかる費用が倍になります。
そのかわり、区分所有登記にした場合には、住宅ローン控除だけでなく、固定資産税や不動産所得税の軽減措置も親と子がそれぞれ対象となります。
建物の登記の形態によって小規模宅地等の特例が適用できる範囲が変わる
親と子が共に建築資金を出して住宅を建てる場合は、共同所有登記にするか、中で行き来できない二世帯住宅の独立した部分ごとに区分所有登記とするかのどちらかの選択になると思います。
たとえば、建築資金を親と子で半分ずつ出し、親の土地に建物を建てる前提では、共同所有の場合には親と子で持分を1/2ずつとして登記し、区分所有の場合には親世帯が住む1階部分を親名義に、子世帯が住む2階部分を子の名義にするといった登記をします。
どちらの登記でも変わりはないように思われますが、相続税では共有登記の方が、小規模宅地等の特例の適用の点で有利になります。
区分所有登記の場合だと、仮に後から増改築を行って1階と2階の行き来ができたとしても、原則として親と別の区分に居住する子は親と同居していないとみなされ、子が建物の敷地を相続しても小規模宅地等の特例の対象となりません。
さらに、その二世帯住宅で被相続人と同じ区分に居住している配偶者や子がいた場合で、その同区分に居住している者が建物の敷地を相続した場合でも、被相続人の居住部分に対応する1/2の宅地に対してしか減額が受けられなくなります。
これは、区分所有登記されたということが、構造上及び利用上の独立が成立しているという所有者自身の意思表示がされたことだと捉えられるためです。
共有登記の場合は建物全体が親及び子の居住用建物に該当するため、敷地全体が親の居住用宅地等として小規模宅地等の特例の対象となり、子は親の同居親族に該当することになります。
敷地の全体について小規模宅地等の特例の対象とするには、建築の際に、建物の所有権を「親の単独所有」として登記するか、「親子の共有として登記」するのがよいでしょう。
すでに区分所有の登記がされている二世帯住宅にお住まいの場合、敷地全体に小規模宅地等の特例の適用を受けたいのであれば、手間はかかりますが、子の持分を親が買いとる、もしくは子から親へ贈与することによって単独所有にすることが考えられます。
転勤による居所地の変更があった場合
二世帯住宅に住んでいた子世帯が、転勤などで家族全員が転居していた場合には、別居親族として取り扱われるため、転勤の間に親が亡くなると、親子同居とみなされず小規模宅地等の特例を受けられないことになります。
子が家族を残して転勤により単身赴任し、その家族が親世帯と同じ家に住んでいる場合は、同居親族とみなされ、特例の適用を受けることができます。
家族が引き続き親と同居していて、相続人である子が週末や連休などに家族のもとに帰るのであれば、相続人の生活の本拠は元の住所にあると判断されるためです。
平成25年度 税制改正による二世帯住宅の取扱いの改正
改正前の相続税の取扱いでは、親の土地に一棟の建物を建てて別生計の親世帯と子世帯が居住する場合、その居住スペースが区分され建物の構造上内部で行き来できない二世帯住宅については、登記の区分に関わらず、それぞれ独立した建物と考えられ、その親世帯と子世帯は同居していないものされていました。
そのため、被相続人の居住スペース以外の部分(子世帯の居住スペース)に対応する宅地等については、原則として被相続人の居住の用に供していた宅地等に該当しないものとされ、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用が認められていませんでした。
しかし、平成25年度税制改正により、平成26年1月1日以降の相続においては、別生計の世帯で、中で行き来ができないタイプの二世帯住宅でも、区分所有登記されていなければ、その宅地の全体が「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」として、80%の減額が認められることになりました。