相続税申告後の手続きについて
相続税は、申告納税制度が取られています。
これは納税者自らが税務署へ申告を行うことで税額を確定させる制度で、相続税のほか所得税、法人税、贈与税などがこれにあたります。
反対に、国や市町村が税金の金額を計算し納税者に納付税額を通知する方式を、賦課課税方式といいます。固定資産税、不動産取得税、自動車税、個人住民税などがこれにあたります。
相続税の申告は、被相続人の相続開始日の翌日から10か月以内に行うこととされていますが、この申告に誤りがある場合には申告書を修正しなければなりません。
納税者側で相続税の申告をやり直す手続きを「修正申告」または「更正の請求」といいます。
また、税務署側で行う手続きを「更正」と「決定」といいます。
相続税の修正申告と更正の請求がどのようなときに必要になるか、税務署側の処分がどのようなものかお伝えします。
1.納税者側で行う手続き
相続税申告書の内容を間違えて記載していた場合(計算ミスなど)や遺産分割を相続税の申告後に行った場合などには、相続税額を訂正しなければなりません。
次に挙げるものは、納税者自らが行う是正手続きです。
申告期限内に訂正する場合・・・「訂正申告」
申告期限後に訂正する場合・・・「修正申告」または「更正の請求」
申告期限を過ぎたあとに、申告書を初めて提出する場合は「期限後申告」となります。
本来払うべき税額より少なく申告した場合(税金を追加で納める必要がある場合)には「修正申告」を、税額を多く払い過ぎた場合(税金を払い戻してもらう場合)には「更正の請求」を行います。
修正申告
修正申告とは、納税者が本来払うべき税額を実際より少なく申告していた場合、あるいは還付される税金が多かった場合に行う手続きです。
修正申告には、不足していた税額について延滞税などのペナルティが課せられることがあるため、間違いに気づいたら早めに修正申告を行いましょう。
修正の申告に該当するのは、たとえば以下のようなケースです。
- 財産の評価や税額の計算に誤りがあった場合
- 申告書に記載していない遺産が後から見つかった場合
- 未分割財産が分割されたことにより税額が増加した場合
修正申告では税務署に「修正申告書」と、必要な場合は追加書類を提出します。
訂正前の金額と訂正後の金額を記入し、税務署に提出します。
なお、基本的に修正申告書に提出期限はありません。税務署からの指摘を受けるまでいつでも、何回でも修正が可能です。ただし、税務調査の連絡があった後の申告になると過少申告加算税が課されます。
税務署からの通知が届く前に自主的に申告内容を修正したほうが、ペナルティの負担が軽減されます。
例外として、下記の場合には、その期限内に修正申告を行う必要があります。
- 相続財産法人によって特別縁故者に遺産の一部が遺贈された場合に、もともとの相続人が既に申告・納税していた相続税が不足することとなった場合・・・10か月以内
- 国等に対して相続財産を寄付し、相続税の非課税の適用を受けていた者について、その寄付をした日から2年後までその財産が公益目的事業に使用されていない場合・・・その寄付の日の2年後から4か月以内
更正の請求
更正の請求は納税者が本来払う税額を実際よりも多く申告していた場合、または還付される税金が少なかった場合に、払い戻しを受けるために行う手続きです。
更正の請求に該当するのは、たとえば以下のようなケースです。
- 財産の評価や税額の計算に誤りがあった場合
- 適用すべき規定を適用せずに計算していた場合
更正の請求をする際には「更正の請求書」のほか、その更正の請求の理由となる「事実を証明する書類」の添付が必要となります。
更正の請求は法定申告期限から5年以内、つまり被相続人の死亡の翌日から5年10ヵ月以内であればできます。
ただし、相続税法第32条第1項に定められた下記等の特殊事由があった場合の更正の請求については、その事由が発生したことを知った日の翌日から4カ月以内に行うことが必要とされていますので注意が必要です。
- 遺留分の減殺請求により相続財産が減少することとなった場合
- 未分割財産が分割され、特例等を適用することにより税額が減少する場合(※)
- 新たに遺言書が発見された場合
※ 未分割の状態で相続税の申告をする場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの優遇を受けることができません。
申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出している場合には、遺産分割協議の成立後、その特例を適用して相続税額を計算し直すことができるため、更正の請求をすることが可能です。
払い過ぎた税金は、更正の請求書の提出後、指定した口座に返金されます。(振込は申告書の提出から2~3ヵ月程度かかります。)
2.税務署側の手続き
「更正」と「決定」
更正と決定は、税務署が納税申告について行う処分です。
処分内容に不服がある場合、納税者は異議申し立てをすることができます。
期限内の申告なら「更正」
期限内申告が提出されたあと、税務調査により誤りが発見されると、調査員から修正申告書を提出するように言われます。
しかし、その判断に納得いかず修正申告書を提出しなかったとします。
その場合には税務署から税額を修正する手続きがとられますが、それを「更正」といいます。
これは税務署が申告書を確認したうえで、徴収した税金が過大であったり過小であったりした場合に、本来の適正な額に直す手続きで、更正には、納付すべき税額を増加する「増額更正」と、減少する「減額更正」があります。
税務署が更正の通知を行うことができるのは、法定申告期限から原則5年以内ですが、更正の処分を受けた納税者は、その内容に不服がある場合、税務署長に対して再調査の請求を行うか、または、国税不服審判所長に対して審査請求を行うことができます。
それでもやはり納得できないときには裁判所に不服を申し立て、訴訟を起こすことも可能です。
期限後の申告なら「決定」
申告書を期限までに提出せず無申告だった場合に、税務署が調査により税額を決定して通知してくる手続きが「決定」です。
申告を行う義務のある人が申告書を期限までに提出せず無申告だった場合や、納税を行わない場合などには、税務署が調査によりその人の納めるべき税額を決定します。
この場合には「配偶者の相続税額の軽減」等の特例の適用はありません。
また、延納、物納、農地の納税猶予、非上場株式の納税猶予などの適用もできません。
相続税の申告期限までに申告・納税を行うことが大切です。
申告期限までに財産のすべてについて調査が終わらないけれど、農地の納税猶予の適用を受けたいといったような場合には、概算で相続財産を評価し、期限内申告を実施するといった方法もあります。
3.税務調査はある?
税務調査は相続税の申告期限から5年以内に行われます。
通常であれば申告期限から3年以内に行われる場合が多いです。
申告書の作成を税理士に頼んでいた場合には、税務署からその税理士を通じて税務調査をする旨が伝えられます。
財産の多い人のところにしか税務調査は来ないと思われている方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに財産額が高いほど調査が行われる確率は上がりますが、そうでなくても、相続直前の預貯金の出金が多額である場合や多額の贈与があり、税務署が確認作業を必要とすると判断した場合には、財産額の多少にかかわらず調査が行われます。
いつ調査が来ても対処できるよう、しっかり申告・納税をしておくことが大切です。