自社株式の評価が必要となるケース
非上場会社において株価算定(企業価値算定、事業価値算定)が必要となる局面は以下のとおり多種多様であり、局面毎に上記より適切な価値算定方法を選択する必要があります。
- M&Aにおける株式の売買価格決定の場合
- VC(ベンチャーキャピタル)から資金調達を実施する場合
- 第三者割当増資の場合
- 取引先等より自己株式を取得する場合
- 少数株主より株式を取得する場合
- ストックオプションを付与する場合の行使価額を算定する場合
- 事業承継の際の株価算定
- 相続の際の株価算定
なお、日本公認会計士協会が公表している企業価値評価ガイドラインによると、株価算定の目的例としては以下の区分にて分類例が示されています。
上記のように、非上場株式の評価が必要なケースは多岐にわたりますが、最も発生確率が高いのは主に以下のような事業承継を考える場合ではないでしょうか。
- 自社株式を相続もしくは贈与により後継者に引き継がせる場合
- M&Aにより自社株式の売買価格を算定する場合
非上場会社で事業承継を考える場合
事業承継を考える際、非上場会社にて問題となるのは、後継者を誰にするのかという問題です。
それとともに自社株式の評価がいくらになるかということが重要な問題になってきます。
この時、自社株式の評価は相続税評価額により評価することになります。
相続税評価額による評価は、まず、①自社株式を保有する株主が同族株主か否かを判定し、次に、②自社株式を発行している会社規模を判定し、さらに、③株主及び会社の判定に基づき、国税庁通達に定められた評価方法により株式を評価していきます。概要は以下の通りです。
非上場株式の評価方式の種類
国税庁の財産評価通達では以下の3つの評価方式が規定され、企業規模などに応じて適切な方式を選択して株式評価を行うことになっています。
ここではまずそれぞれの方式の概要をかいつまんで説明します。
類似業種比準価額方式
業種が類似した上場企業の近時の株価・配当・利益・純資産を基準にして価額を算出する方式です。基準となる株価などは業種別に国税庁より随時発表されます。
【類似業種比準価額方式】
1株当たりの価額=A×{(B+C+D)÷3}×e
- A:業種別の基準株価
- B:自社の1株当たりの配当額(非経常的配当を除いた直前期末以前2年間の平均)÷業種別の基準配当額
- C:自社の1株当たりの利益額(直前期末以前1年間)÷業種別の基準利益額
- D:自社の1株当たりの純資産額(直前期末簿価)÷業種別の基準純資産額
- e:企業規模に応じた比率(大会社7、中会社0.6、小会社0.5)
Bは自社の配当額が基準額の何倍に当たるかを表します。C、Dも同様です。業種別の基準株価Aをベースとし、配当・年利益・純資産の程度(B~D)にしたがって加減し、企業規模に応じた比率をかけて価額を算出するというわけです。企業規模の判定基準については後ほど解説します。
純資産価額方式
課税時期の時価で評価した純資産をもとにして価額を算出する方式です。
【純資産価額方式】
1株当たりの価額={(A-B)-C}÷ 発行済株式数
- A:通達の規定で計算した時価総資産
- B:通達の規定で計算した時価負債合計
- C:通達の規定で計算した時価純資産(A-B)が帳簿上の時価純資産を上回った場合、その差額に対する法人税・事業税・住民税相当額(2020年8月10日現在、差額の37%)
通達では財産の種類ごとに時価の評価方法が定められています。例えば、在庫にある原材料や部品は取得価格ではなく改めて調達する場合の仕入価格が基準となります。一方、生命保険契約については解約した場合に支払われる払戻金などで評価されます。
一般的に、純資産の時価を評価する方法には精算価値法と再調達価値法があります。通達では2つの方式が混在しており、財産の種類ごとに評価方法を慎重にチェックする必要があります。
配当還元方式
株式の配当額から逆算して株式の価値を推定する方式です。
これは学説やファイナンス実務、近時の裁判例などでは主流の手法に属しますが、国税庁通達では少数株主が株式を取得する場合にしか使われない特例的な方法で、事業承継対策にとっては重要度が低いため、詳しい説明は省略します。
また、株式が多数分散している会社もあるかと思います。このような会社の場合、円滑に事業承継するために、会社の経営権たる自社株式を一定数以上集約しておく必要があります。
例えば、株式の分散を放置したまま、社長の相続をむかえると・・・・
社長の死をきっかけに相続争い等で会社経営に支障をきたす可能性が高くなります。
また、後継者がおらず、外部に売却する場合でも、有る程度のまとまった株数がないと売却が上手くいかない可能性が高まります。
そのため、自社株式を集約する必要がありますが、第三者が保有する自社株式を購入する価格を決定しなくてはなりません。
会社オーナーと第三者との取引の場合、自社株式は時価での評価が必要となります。これは、M&Aなどの取引の際にも同様です。
自社株式を時価で評価する方法には様々な方法がありますが、最も一般的な方法がDCF法(株式から得られる将来のキャッシュを現在価値に引き直した合計額)での評価方法です。
このように、自社株式を評価するケースは事業承継を考える場合がほとんどであろうと思います。
事業承継という重要な局面で、自社株式を評価する必要がある場合には専門家に相談し、ご自分の考えている形がベストな選択なのかをまずお考えになるとよいと思います。