住宅取得等資金の非課税制度
親が、子や孫のマイホーム購入資金を援助した場合に贈与税が非課税になる制度があります。
この制度について聞いたことがある、知っているという方も多いと思いますが、実はこの制度はその適用要件や申告について誤った知識のまま贈与を受けてしまうと、けっきょく非課税の適用が受けられない!といった状況になってしまうことがある注意の必要な制度です。
もしマイホームの購入にあたって両親や祖父・祖母から資金の援助を受けることが決まったら、非課税の適用を受けるために、順を追って要件を確認し、丁寧に手続きを進めることが大切です。
まず、購入予定の住宅について、非課税の適用が受けられる住宅かどうか、また、適用できる場合にはいくらまで非課税枠があるか、贈与を受けるタイミングはいつなら大丈夫かなどを確認し、その確認後に住宅購入をするようにしてください。
そして贈与を受けた年の翌年3月15日までに、必ず贈与税申告書を提出してください。
3月15日を1日でも過ぎてしまった場合には、非課税の適用を受けることができません。
詳しい適用要件や注意点などを見ていきましょう。
制度の内容
平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から住宅を取得するのための金銭等(住宅取得等資金)の贈与を受けた受贈者が、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その住宅取得等資金の全額を自宅の土地・建物の購入・新築・増改築等に充て、同日までにその自宅に居住した場合(同日後遅滞なくその自宅に居住することが確実であると見込まれる場合を含む)には、その住宅取得等資金のうち一定金額について贈与税が非課税となります。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響で、取得期限までに購入ができなかった場合や居住期限までに居住ができなかった場合などには、期限が1年延長されます。
受贈者の要件
次の要件の全てを満たす受贈者が非課税の適用対象者となります。
- 贈与を受けた時に、贈与者の直系卑属(子、孫、曾孫)であること。
- 贈与を受けた年の1月1において20歳以上であること。
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与を受けた資金の全額を住宅取得等にあて、同日までか、遅くとも贈与の年の翌年12月31日までにその住宅に居住すること。(12月31日までに居住していない場合には非課税が取り消され、修正申告が必要になります。)
- 次のいずれかに該当する者であること。
- 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること(平成29年4月1日以後に住宅取得資金の贈与を受けた場合には、受贈者が一時居住者であり、かつ、贈与者が一時居住贈与者又は非居住贈与者である場合を除きます。)
- 贈与を受けた時に日本国内に住所を有しない者については、日本国籍を有し、かつ、受贈者又は贈与者がその贈与前10年以内に日本国内に住所を有したことがあること。
- 贈与を受けた時に日本国内に住所も日本国籍も有しないが、贈与者が日本国内に住所を有していること。
非課税限度額(住宅資金非課税限度額)
住宅の種類や、住宅用家屋の取得等の契約時期により非課税金額が異なります。
個人間の中古物件の売買については、原則として消費税はかかりませんので「①以外の場合」に該当します。
既に非課税の特例の適用を受けて贈与税が非課税となった金額がある場合には、その金額を控除した残額が非課税限度額になります。
ただし、上①の表における非課税限度額については、平成31年3月31日までに住宅用の家屋の新築等に係る契約を締結し、既に非課税の特例の適用を受けて贈与税が非課税となった金額がある場合でも、その金額を控除する必要はありません。
「省エネ住宅等」とは、下記の省エネ等基準に適合する住宅用の家屋であることにつき、下表のいずれかの証明書等を贈与税の申告書に添付することにより証明されたものをいいます。
- 断熱等性能等級4以上、または、一次エネルギー消費量等級4以上
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上、または、免震建築物
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上
上記の証明書などの発行については、国土交通省又は地方整備局にお尋ねください。
住宅に関する要件
非課税の特例が適用される住宅等は次の通りです。
- 日本国内にある住宅であること。
- 登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が50㎡以上240㎡以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住用とされていること。
- 次のいずれかに該当すること
- 新築の住宅用家屋
- 中古住宅で、その取得の日以前20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)に建築されたもの(注) 耐火建築物とは、登記簿に記録された家屋の構造が鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造などのものをいいます。
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- 中古住宅で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの
- 上記のいずれにも該当しない中古住宅で、その住宅の取得日までに今後その住宅の耐震改修を行うことにつき、一定の申請書等に基づいて都道府県知事などに申請をし、かつ、贈与を受けた翌年3月15日までにその耐震改修によりその住宅が耐震基準に適合することとなったことにつき一定の証明書等により証明がされたもの
- 増改築等の場合、「確認済証の写し」、「検査済証の写し」又は「増改築等工事証明書」などの書類による証明がされたもので、工事費用が100万円以上であること
注意点
この住宅取得等資金の非課税を受ける場合には、非課税により贈与税額がゼロとなる場合でも必ず贈与税申告を行いましょう。
非課税枠は、贈与税の基礎控除である110万円と併用が可能です
例えば、非課税枠が1,500万円となる住宅契約を結び、1,800万円の贈与を受けた場合、1,610万円までの贈与が非課税となり、190万円について贈与税がかかります。
非課税の適用を受けた金額は生前贈与加算されません
通常、相続開始前3年以内の贈与については相続財産にプラスして相続税が計算されますが、非課税の適用を受けた金額は相続財産にプラスされません。
手付金や土地の先行取得がある場合などはタイミングに注意が必要です
贈与を受けるタイミングとしては、住宅取得(契約時ではないので注意してください)の直前をお勧めします。
住宅ローン控除との併用不可
贈与税の非課税の適用を受けた金額については住宅ローン控除の対象から除外されるため、確定申告の際に注意が必要です。
たとえば、住宅の購入金額3,500万円のうち、親から1,500万円の資金贈与を受け、2,300万円のローンを組んだとします。
この場合、住宅ローン控除を受けることができる金額はローン残高の2,300万円ではなく、住宅購入金額3,500万円-資金贈与金額1,500万円の2,000万円です。
適用が受けられないケース
土地や建物そのものの贈与は非課税の適用がありません。あくまでも住宅取得等資金(現金)の贈与が対象です。
住宅を新たに取得するための資金援助に限定されるため、既存の住宅ローンの返済のための資金援助はこの特例の対象となりません。
配偶者や親族などの特別の関係がある人から住宅用家屋の取得をした場合や、それらの者との請負契約によって新築・増改築等をした場合には非課税の対象となりません。
なお、持家を購入すると相続時に小規模宅地等の特例が受けられなくなる場合があるため、相続税の節税対策をしたい人は注意が必要です。
相続時精算課税制度の適用もできる
住宅取得等資金の贈与税の非課税については、暦年課税だけでなく「相続時精算課税制度」を選ぶこともできます。
20歳以上の子や孫が60歳以上の父母または祖父母から受けた贈与について、贈与財産の累計額が2,500万円まで贈与税がかからない特別控除が利用でき、さらに住宅取得等資金の非課税も利用できます。
例えば消費税10%の省エネ住宅の購入の場合、「2500万円+最大1,500万円の4,000万円について贈与額がかかりません。
これだけ聞くととてもいい制度のように聞こえますが、デメリットがあります。
相続時精算課税制度は、贈与財産の2,500万円までは贈与税がかからず、2,500万円を超えた金額について贈与税が20%かかるという制度です。
しかし、住宅取得等資金の非課税を受けた金額以外について、特別控除額分2,500万円を含むすべての贈与財産が相続時に相続財産にプラスして相続税が課税され、贈与時に支払った贈与税がある場合にはそれが控除され精算されます。
対する暦年贈与は、住宅取得等資金の非課税を受けた金額以外について、死亡前3年分の贈与財産が相続財産に加算されますが、それ以前の贈与財産については相続財産に加算されません。
つまり、相続時精算課税制度は、贈与時には少ない税額で財産を贈与できますが、これは課税の繰り延べに過ぎず、将来かならずその贈与財産に相続税が課税されるのです。
また、一度相続時精算課税を選ぶと、その親からの贈与については暦年課税に戻すことができません。
年間110万円の基礎控除が永久に使えなくなってしまうのです。
相続時精算課税制度は節税目的で利用するというものではなく、推定相続人にしばらくの間の贈与税の負担なく、現時点でまとまった資金を移転することができるという制度ですので、この条件に合う場合や、時価が上昇することが確実な資産を贈与したいといった場合にのみ利用を検討することをおすすめします。