1.書面添付制度の趣旨
書面添付制度とは、税理士法(以下「法」という)第33条の2に規定する「書面添付制度」と法第35条に規定する「意見聴取制度」を総称したものです。
平成13年度税理士法改正により、税理士の立場をより尊重し、税務業務がより円滑かつ簡潔に行われるよう、従来の制度が拡充されました。
相続税の申告書は、税理士が納税義務者に代わって申告書を作成するケースが多いと思われます(他の税目と比べて、相続税は申告書を提出しないといけない方の割合が少ないため、申告書の作成に慣れているという方は税理士以外ほとんどいないと思います)。
もし、税理士が申告書を作成して税務署に提出していた場合において、後日税務署がその調査を行おうとする際には、税務署は税理士に対して税務調査の日時・場所をあらかじめ通知する(ここでは単に日時や場所が通知されるだけで、税理士の意見を求められるわけではありません)こととなります。
しかし、もし税理士がその申告書を作成するにあたって、法第33条の2に規定する「計算事項等を記載した書面」を一緒に作成し、その書面を申告書に添付して提出していた場合において、後日税務署がその調査を行おうとする際には、その税務調査の日時・場所の通知前に、税務代理を行う税理士又は税理士法人に対して、添付された書面の記載事項について「意見聴取」をしなければならないこととされています。
つまり、税務署は納税義務者に話を聞く前に、まずは税理士を税務署に呼んで(または税理士事務所を訪問して)、意見を述べる機会を与えなければならないため、納税義務者にとってはワンクッション置くことができるようになります。
もし、納税義務者自らが申告書を作成し提出していた場合において、税務調査が行われることになれば、日程調整からその後の対応も全てご自身で行わなければなりませんので、物理的な負担だけでなく精神面での負担も大きく変わってくるかと思います。
●納税義務者本人が申告書を作成し提出した場合
●税理士が申告書を作成し提出した場合(書面添付なし)
●税理士が申告書を作成し提出した場合(書面添付あり)
この添付書面は、納税義務者ではなく、税理士が税務の専門家としての責任をもって作成する書面になります。
したがって、書面添付制度は、「書面の添付」及び事前通知前の「意見陳述」を通じて、税務の専門家の立場からどのように申告業務を進めてきたかを明らかにすることができる、税理士に与えられた権利の一つと言えるでしょう。
2.書面添付制度の効果は?
1のとおり、書面添付制度は、税理士が税務の専門家としてその申告書をどのようにして作り上げたかを記載した書面を申告書に添付することにより、税務署は申告書だけでは分からなかった情報を入手することができ、その結果として税務業務を円滑にかつ簡潔に行うことが可能になる、というのがその趣旨です。
さらに、この書面に記載された事項は、前述の通り税務の専門家である税理士からの申告書に関する情報ですので、税務署としては申告書の内容を審理する際や調査に入ることが必要かどうか判断する際に、積極的に活用することとされています。
また、事前通知前に税理士に対して意見聴取を行ったことによりその疑問が解消し、結果として調査の必要性がないと認められた場合には、納税義務者の自宅や事務所等を訪問して行う調査に至らないこともあり得ます。
その場合には、税理士に対し「現時点では調査に移行しない」旨の連絡を、原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」により行うこととされています。
納税義務者にとっては税務署の担当官に会うことなく調査が終了する可能性があるというのは非常に大きなメリットですが、もちろん、この書面を提出したからと言って絶対に税務調査が入らない!というわけではありません。書面添付制度は税務調査の省略を前提としているものではありませんのでご注意ください。
また、書面添付制度を活用することによるメリットがもう1点あります。
それは、事前通知前の意見聴取の際に何らかの申告書の間違いが判明し、その指摘を受けて修正申告書を提出した場合には加算税が賦課されない、という点です。
意見聴取における税務署からの質疑等は、調査を行うかどうかを判断する「前」に行うものであり、特定の納税義務者の税額等を決定する目的で行うものではありません。
したがって、意見聴取における質疑等のみによって修正申告書が提出されたとしても、その修正申告書の提出は「更正があるべきことを予知してされたもの」には該当しないため、加算税が賦課されることはないのです。
3.添付する書面とはどのようなものなのか?
具体的には法第33条の2にどのような内容を記載すべきかが規定されていますが、簡単に言うと「税理士がこれこれこういうことを調べてこの申告書を作成しました」という説明書のようなものになります。
相続する財産・債務の金額や、相続税の計算結果は申告書を見れば明らかですが、それがどのような資料に基づいているのか、税理士がどの程度調査したのか、相続人からどのような相談を受け・どのような説明をしたのかまでは、申告書を見ただけでは税務署には分かりません。
そういった内容をまとめた説明書を申告書に添付して提出することにより、税務署が抱くかもしれない疑問を事前に解消する手助けをすることができます。
4.意見聴取はどのようにして行われるのか?
事前通知前の意見聴取は、税務署が納税義務者に対する調査の事前通知を行う予定日の1~2週間前までに、意見聴取の日時、方法を取り決めるための連絡が行われることとされています。
この意見聴取は、書面を添付した税理士が申告にあたり、何の資料を用いてどのように計算等を行ったかということを税務署に説明したり、実際の意見聴取に当たって税務署側に生じた疑問点を解明することを目的として行われます(なお法第30条に規定する「税務代理権限証書」を提出している必要があります)。
ちなみに、意見聴取は税理士に対して行われるものであり、納税義務者を同席させて行うものではありません。
また、税理士だけが意見を述べるわけではなく、税務署側も例えば、顕著な増減事項・増減理由や会計処理方法に変更があった事項・変更の理由などについて具体的に質問を行うなど、積極的に意見聴取の機会を活用するように努めることとされています。
意見聴取は税理士のみに与えられた権利ですので、書面に記載した事項に関することや、生じた疑問点が解明されるよう、積極的に意見を陳述する必要があると考えます。
【参考】
(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)
法第33条の2
税理士又は税理士法人は、国税通則法第16条第1項第1号に掲げる申告納税方式又は地方税法第1条第1項第8号若しくは第11号に掲げる申告納付若しくは申告納入の方法による租税の課税標準等を記載した申告書を作成したときは、当該申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項を財務省令で定めるところにより記載した書面を当該申告書に添付することができる。
2 税理士又は税理士法人は、前項に規定する租税の課税標準等を記載した申告書で他人の作成したものにつき相談を受けてこれを審査した場合において、当該申告書が当該租税に関する法令の規定に従つて作成されていると認めたときは、その審査した事項及び当該申告書が当該法令の規定に従つて作成されている旨を財務省令で定めるところにより記載した書面を当該申告書に添付することができる。
3 税理士又は税理士法人が前2項の書面を作成したときは、当該書面の作成に係る税理士は、当該書面に税理士である旨その他財務省令で定める事項を付記して署名押印しなければならない。
(計算事項、審査事項等を記載した書面)
規則第17条
法第33条の2第1項又は第2項に規定する財務省令で定めるところにより記載した書面は、別紙第9号様式又は別紙第10号様式により記載した書面とする。
(調査の通知)
法第34条
税務官公署の当該職員は、租税の課税標準等を記載した申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)を調査する場合において、当該租税に関し第30条の規定による書面を提出している税理士があるときは、あわせて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。
(意見の聴取)
法第35条
税務官公署の当該職員は、第33条の2第1項又は第2項に規定する書面(以下この項及び次項において「添付書面」という。)が添付されている申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第30条の規定による書面を提出している税理士があるときは、当該通知をする前に、当該税理士に対し、当該添付書面に記載された事項に関し意見を述べる機会を与えなければならない。
2 添付書面が添付されている申告書について国税通則法又は地方税法の規定による更正をすべき場合において、当該添付書面に記載されたところにより当該更正の基因となる事実につき税理士が計算し、整理し、若しくは相談に応じ、又は審査していると認められるときは、税務署長(当該更正が国税庁又は国税局の当該職員の調査に基づいてされるものである場合においては、国税庁長官又は国税局長)又は地方公共団体の長は、当該税理士に対し、当該事実に関し意見を述べる機会を与えなければならない。
ただし、申告書及びこれに添付された書類の調査により課税標準等の計算について法令の規定に従つていないことが明らかであること又はその計算に誤りがあることにより更正を行う場合には、この限りでない。
3 国税不服審判所の担当審判官又は地方公共団体の長は、租税についての不服申立てに係る事案について調査する場合において、当該不服申立てに関し第30条の規定による書面を提出している税理士があるときは、当該税理士に対し当該事案に関し意見を述べる機会を与えなければならない。
4 前3項の規定による措置の有無は、これらの規定に規定する調査に係る処分、更正又は不服申立てについての決定若しくは裁決の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。