相続税申告のために必要な準備
相続税の申告のためには、(1)遺言書の有無の確認、(2)相続人の確定、(3)財産と債務の確認、(4)財産の評価、(5)遺産分割協議などの手続きが必要となります。各手続きの内容は下記の通りです。
(1)遺言書の有無の確認
まずは、被相続人が遺言書を作成していたか否かを確認します。
遺言書には公正証書遺言または自筆証書遺言の2種類がありますが、どちらの形式で作成されていたかによりその後の手続きが異なってきます。
<公正証書遺言の場合>
遺言検索システムにより、昭和64年1月1日以降に公証役場で作成された公正証書遺言であれば、全国のどの公証役場からでも公正証書原本を保管している役場を検索することができます。
しかし、昭和63年以前に作成されたものに関しては各公証人役場内で管理されていますので、ご自宅近くの役場を中心に、各々問い合わせをする必要があります。
また、公正証書遺言は原本が公証役場で保管されているため、万一紛失してしまって手許にない場合であっても、公証役場で遺言書の謄本(写し)を請求することができます。
公正証書遺言は検認を受ける必要がありませんので、これを使えば不動産登記や金融機関での名義変更等が可能です。
なお、遺言検索の依頼や謄本を請求できる人、必要書類等は、遺言者の生前と死後で異なります。
① 遺言者の生存中
遺言者本人か、遺言者の委任状を持った代理人のみが、検索を依頼又は遺言書の謄本を請求することができます。相続人や受遺者などが相続開始前に遺言書の閲覧請求を行うことはできません。つまり、生前に相続人等が勝手に遺言書の内容を確かめようとしても方法がないということです。
検索を依頼又は遺言書の謄本を請求する際には下記の書類等が必要になりますので、事前に公証役場に確認するようにしてください。
a.遺言者本人が役場に行く場合
・遺言者本人の身分証明書と印鑑
b.遺言者本人が役場に行くことができず、代理人が行く場合
・遺言者本人の印鑑登録証明書(3か月以内のもの)
・本人の実印を押捺した委任状
・代理人の身分証明書と印鑑
② 遺言者の死亡後
遺言者の死亡後に請求ができるのは、「法律上の利害関係」のある人に限られます。
相続人・受遺者などの利害関係人、又はその委任状を持った代理人や遺言執行者が、検索を依頼又は遺言書の謄本を請求することができます。
その際には下記の書類等が必要になりますので、事前に公証役場に確認するようにしてください。
a.相続人本人が役場に行く場合
・相続人の身分証明書と印鑑
・遺言者が亡くなったことが記載された戸籍(除籍)謄本
・遺言者と相続人との続柄のわかる戸籍謄本
b.相続人が役場に行くことができず、代理人が行く場合
・相続人の印鑑登録証明書(3か月以内のもの)
・相続人の実印を押捺した委任状
・代理人の身分証明書と印鑑
・遺言者が亡くなったことが記載された戸籍(除籍)謄本
・遺言者と相続人との続柄のわかる戸籍謄本
c.相続関係にない受遺者や遺言執行者が役場に行く場合
・受遺者又は遺言執行者の身分証明書と印鑑
・遺言者が亡くなったことが記載された戸籍(除籍)謄本
d.受遺者や遺言執行者が役場に行くことができず、代理人が行く場合
・受遺者・遺言執行者の印鑑登録証明書(3か月以内のもの)
・受遺者・遺言執行者の実印を押捺した委任状
・代理人の身分証明書と印鑑
・遺言者が亡くなったことが記載された戸籍(除籍)謄本
<自筆証書遺言の場合(法務局の保管制度を利用していない場合)>
自筆証書遺言の場合には、遺言書を開封する前にまず家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
検認には1か月~1か月半かかる場合もあり、検認が終わらないと、不動産登記や金融機関での名義変更等ができません。
<自筆証書遺言の場合(法務局の保管制度を利用している場合)>
自筆証書遺言であっても、法務局における自筆証書遺言保管制度を利用されていれば、法務局で原本が保管されているため、証明書の交付請求や遺言書の閲覧請求が可能になります。
また、その場合は検認を受ける必要がありません。
① 遺言者の生存中
遺言者は、自分の預けた遺言書が保管されている法務局において、いつでもその閲覧請求ができます。公正証書遺言と違って、代理人が代わって請求をすることはできませんので、本人が自ら出向いて行うことになります。
閲覧を請求する場合は、「請求書」を法務局に提出します(法務省のホームページよりダウンロードできます)。また、法務局の窓口で受け取ることもできます。
なお、遺言者は、遺言書を預けた法務局だけでなく、どの法務局でも「遺言書保管ファイルに記録された事項」の閲覧の請求をすることができます。法務局はこれを「モニターによる閲覧」と呼んでいますが、法務局のモニター(タブレット等)で閲覧することになります。現物が保管されていない他の法務局で閲覧をしたい場合には、モニターによる閲覧請求を行うことになると思われます。
必要資料
・遺言者の本人確認資料
② 遺言者の死亡後
相続人や受遺者は、相続開始後(遺言者が死亡した後)に遺言書の閲覧請求が可能になります。①で記載した通り、遺言者の生存中には閲覧請求は認められません。
閲覧請求は、遺言書が保管されている法務局で原本の閲覧をすることもできますし、その他の法務局でモニターによる閲覧をすることもできます。
相続人や受遺者が閲覧請求をする場合には下記の書類等が必要となりますので、事前に法務局に確認するようにしてください。
必要資料
・法定相続情報一覧図の写し又は遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の住民票(3か月以内のもの)
・請求人の住民票(受遺者や遺言執行者が請求する場合)
・請求人が法人であるときは、代表者事項証明書(3か月以内のもの)
・法定代理人によって請求するときは、戸籍謄本その他のその資格を証明する書類(3か月以内のもの)
(2)相続人の確定
遺言書の有無の確認とあわせて、相続人が誰であるかを調査し確定させる必要があります。
そのためには、被相続人の出生から死亡日までの連続した戸籍謄本等を全て集め、その戸籍の内容を見て誰が相続人となるのかを確定させます。
具体的には、まず、被相続人の本籍地の市区町村役場から戸籍を取寄せます(本籍地がわからないのであれば、被相続人の本籍地入りの住民票除票を取得することにより本籍地が判明します)。
次に、取寄せた戸籍に書かれている内容を確認して、もっと古い戸籍があればその本籍地の戸籍を取得します。
それを繰り返して出生の戸籍まで遡ります。出生から死亡までの戸籍をすべて取寄せたら、そこから相続人が誰なのかを判断します。
なお、法定相続人が兄弟姉妹になる場合は、これに加えて亡くなった方の両親の出生から死亡までの連続した戸籍謄本までさかのぼって確認する必要があり、たくさんの戸籍が必要になりますので、早めに取得することをお勧めします。
これらの戸籍謄本等は、金融機関・法務局・年金事務所など様々な場面で提出する必要が出てきますので、もし取得が難しければ専門家に依頼することも一つの方法だと思います。
(3)財産と債務の確認
相続人が確定できたら、次は財産・債務の確認です。
被相続人がどのような財産(または債務)をどれくらい持っていたのか調べる必要があります。
具体的には、ご自宅や貸金庫などに通帳、証書、金融機関からのお知らせ、不動産の権利証(登記識別情報通知書)、保険証券などがないか探します。
金融資産があることが判明した場合には、金融機関からお亡くなりになった日の残高証明書を取り寄せて財産額を把握します。
不動産があることが判明した場合には、当該不動産の市区町村役場で名寄帳等を、法務局で登記事項証明書等を取寄せて財産を把握します。
生命保険契約がある場合には、受取りの手続きを行います。
また、葬儀や埋葬等にかかった費用は財産額から差し引くことができますので、領収書は必ず取っておいてください。御布施等の領収書が出ないものについては、メモ書き(寺院名・内容・金額等を書いておきます)を残しておくと良いでしょう。
なお、財産内容の把握には、郵便物を確認することも役立ちます。
もし、銀行や証券会社に口座を所有していた場合、金融機関などから書類が届くこともありますし、不動産を所有していた場合には、市区町村役場から固定資産税の納付書が届きます。
また、被相続人が受取人に知らせずに生命保険に入っていた場合、保険会社からのお知らせで 初めて契約があることを知るというケースもありますので、注意が必要です。
(4)財産の評価
財産と債務の確認ができたら、その1つずつについて相続税法や財産評価基本通達に則って相続税評価をする必要があります。
(5)遺産分割協議
遺言書がある場合には遺言書によりますが、遺言書がない場合には、(2)で確定した相続人全員で遺産分割協議をし、「遺産分割協議書」を作成する必要があります。
※ 相続人のなかに未成年者がいる場合には、その未成年者について家庭裁判所で「特別代理人」の選任を受けなければならない場合があります。この場合、特別代理人が、その未成年者に代わって遺産の分割協議を行います。
※ 期限までに分割できなかったときは民法に規定する相続分で相続財産を取得したものと仮定して相続税の申告をすることになります。その場合、当初の申告では「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」等の適用を受けることはできません。
(6)申告と納税
遺産の分割が終わり、必要な書類を揃えたら、「相続税の申告書」を作成するとともに税額を確定させます。
申告書を完成させ税額が確定したら、必要書類とあわせて申告書を税務署に提出するとともに納税をし、申告完了となります。
なお、提出(納税)期限を過ぎると罰金が科されますので注意が必要です。
相続税の申告書は申告書等の様式に従って順番通りに記入していけば完成するようになってはいます。
ただし、かなりのボリュームがあり、作成には時間が必要です。
また、必要な情報、必要な書類を揃え、時間と手間をかけて自分で手続きを進めなければなりません。もれなどあれば税務調査が入る可能性も高くなります。
下記に当てはまる方は、税理士に依頼することをおすすめします。
• 土地や非上場株式を持っている
• 相続人が多数いる
• 納税額を出来る限り節税したい
• 相続税申告を自分で手続きすることに不安を感じている
• 自分で手続きする時間がない