相続財産の調査・財産目録の作成
(1)相続財産の調査
相続人調査により相続人の範囲とそれぞれの相続分が確定した後は、被相続人の財産の範囲及び内容を確定させなければなりません。なぜなら、財産の範囲や内容が決まらないと、法定相続人間で引き続き行う遺産の分け方に関する話し合い、いわゆる「遺産分割協議」の対象となる財産が決まらず、結局、相続手続きを進めることができなくなってしまうからです。
また、財産には、不動産、現預金、株式及び貸付金などの「プラスの財産」から、住宅ローン等の借入金、固定資産税等の税金の未払分などの「マイナスの財産」までが含まれます。仮にプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合で、マイナスの財産を引き継ぐことを希望しないときには、各相続人は、自己の判断で、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に「相続放棄」の手続をとる必要があります。
どんなプラスまたはマイナスの財産がどのくらいあるのかが分からなければ、相続放棄の手続きをした方が良いのかどうかを決めることはできませんので、このような相続放棄をするか否かを決めるためにも相続財産の内容や範囲を確定させることが必要になります。
そして、遺産分割協議を開始するためには、被相続人が所有していた全ての財産を「漏れなく」調査することが必要になります。なぜなら、一度遺産分割協議をした後に新たな財産が判明した場合には、その財産については、原則として、もう一度遺産分割協議を行わなければならなくなってしまうからです。せっかく終わったと思ったのに、やり直しをしないといけなくなれば、非常に二度手間に感じることでしょう。
財産には、プラスとマイナスがあるとお伝えしましたが、相続される財産の例としては、以下のようなものが挙げられます。なお、どのような財産が相続財産に含まれるのか又は含まれないのかについては、専門的な判断が必要になってくることも多いため、弁護士・税理士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
では、それぞれの財産についてどのように調査していけば良いかを見ていきましょう。
1.不動産
被相続人が住んでいた自宅の所有者が、その方自身であることは少なくありません。また、不動産賃貸業をされていた方であれば、投資用のアパートやマンションを持っていたかもしれませんし、週末や長期休暇などで過ごすための別荘を持っている方も中にはいらっしゃるでしょう。
このように、被相続人の財産を確認するためには、不動産の調査が必須であると言えます。
土地や建物等の不動産については、下記の資料を基に、どこに何を所有しているかを調査します。
• 固定資産税納税通知書に添付されている課税明細書
• (課税明細書が見当たらない場合)都税事務所又は市役所で発行される固定資産課税台帳兼名寄帳
• 登記事項証明書
• 権利証
では、具体的に不動産の調査はどのような方法で行えばよいのでしょうか。
まずは上記で列挙した資料のうち、一番容易に手に入るのが「課税明細書」です。毎年5~6月頃に市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に添付されていますので、一度お家の中を探してみてください。
課税明細書には、その人がどのような土地・家屋を所有しているのかが記載されており、被相続人名義の不動産を把握するのに役立ちます。
もし、課税明細書を紛失してしまっている場合には、「固定資産課税台帳兼名寄帳」という書類を市区町村の役場で取寄せることができます。市区町村によってその名称は異なりますが、要は「亡くなった方が所有していた全ての不動産(固定資産税が非課税のものも含む)が記載されているもの」を取得できれば結構です。
「課税明細書」または「固定資産課税台帳県名寄帳」が取得できたら、そこに記載されている土地・家屋の「登記事項証明書」を取得します。
登記事項証明書には、不動産の所在や地目、地積、所有者の名前・住所、権利関係等が記載されています。また、その土地が他の人との共有である場合には、その持分割合も登記事項証明書で確認することができます。
登記事項証明書は全国にある法務局で請求することが可能ですし、郵送でも受け付けてもらえます。また、登記・併託オンライン申請システムによってインターネット上からも取得できるようになっています。
2.金融資産
全て現金でやり取りする主義だという方もいらっしゃるかもしれませんが、大多数の方は銀行や信用金庫、農協等にお金を預けていると思います。また、証券会社や信託銀行等で株式や投資信託等の有価証券を所有している方もいらっしゃるでしょう。
それら金融資産の調査には、下記のような資料が必要になります。
• 記帳した通帳
• 定期預金証書
• 出資金証書
• 証券会社等の金融機関から定期的に届く残高報告書
• 配当金の支払いに関する通知書
通帳や証書には、銀行名や支店名が印字されていますので、その金融機関に対して「残高証明書」を請求してください。残高証明書を見れば、預金の種類(普通預金・定期預金など)といくらお持ちだったかが分かります。
また、株式や投資信託をお持ちの場合には、証券会社等から3か月に1回程度、定期的に報告書が届いていたはずです。そちらにも所有している有価証券の銘柄や数量が記載されていますが、死亡日時点の残高とは異なる場合がありますので、やはり残高証明書を請求した方が良いでしょう。
もし、配当金の支払通知書があるのに、被相続人が証券会社で取引を行っていない場合には、信託銀行で株式を所有している可能性があります。その場合には、「証券保管振替機構」に対して「登録済加入者情報の開示請求」という手続きをすると、亡くなられた方の株式等に係る口座の開設先を確認することができます。
3.非上場株式
亡くなられた方が会社を経営されていた場合、その会社の株式を所有していることが多いです。また、その方自身は経営に参加していなくても、会社の株式だけを所有しているケースもあります。
その場合には、その会社が上場企業でなくとも、株式はもちろん亡くなられた方の財産になります。
ただ、上場企業の株式とは異なり、非上場の会社の株式は株価が公表されているわけではありませんので、下記の資料を基に計算をすることになります。
• 法人税確定申告書、決算書、内訳書
• 会社保有不動産の固定資産税の評価証明書
• 会社保有不動産の登記事項証明書、公図測量図等
• 会社保有上場株式等の残高報告書、配当通知等
• 会社名義の保険契約、出資金その他投資に関する資料
• 会社が保有する子会社の株価評価資料
非上場の会社の株価を計算するには専門的な知識が必要になりますので、税理士や会計士等の専門家にご依頼されることをお勧めします。
4.その他財産
• ゴルフ会員権の会員証、査定書
• 書画骨董品、貴金属の査定書、購入時の領収書
• 自動車の査定書
1~3以外にも財産にはさまざまな種類がありますので、ここでは代表的なもののみ記載しますが、どのような財産が相続財産に含まれるのか又は含まれないのかについては、専門的な判断が必要になってくることも多いため、弁護士・税理士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
5.保険関係
死亡保険金は受取人固有の財産になりますので、原則として遺産分割協議の対象にはなりません。また、相続放棄をした場合でも保険金を受け取ることはできます。
ただし、死亡保険金は相続税法上の「みなし相続財産」として相続税の課税対象となりますので、相続税の納税義務がある方は忘れないようにしなくてはなりません。
稀に、ご家族の方が知らないうちに保険に加入しているケースがありますので、下記のような資料がお家の中にないかどうか注意してください。
• 保険証券
• 保険会社から定期的に届く契約内容のご案内
6.債務
金融機関に対する借入については、下記のような資料がありますし、その金融機関に開設している口座から毎月返済が行われているはずですので、簡単に把握できるかと思います。
• 金銭消費貸借契約書
• 返済計画表
なお、借入金についても残高証明書を発行してもらうことができますので、2.金融資産に記載しているのと同様に、金融機関に残高証明書を請求してください。
また、個人に対する借入れについては、上記の書類から残高を計算する必要があります。お元気なうちからお話を聞いておき、相手方とも残高を確認しておくことが望ましいでしょう。
(2)財産目録の作成
(1)の相続財産の調査で集めた書類を基に、不動産、金融資産、非上場株式、その他財産、債務を項目別に列挙し、それらの評価額を記載した「財産目録」を作成します。
目録に記載する不動産の金額については、課税明細書や固定資産課税台帳兼名寄帳に記載された固定資産税評価額でも良いかと思います(遺産分割や遺留分では時価がいくらなのかが問題となりますし、相続税申告時には国税庁が定める路線価や倍率といった数値を基準に相続税評価額を算出します)。
金融資産については、残高証明書の金額を記載しますが、死亡日から実際に解約するまでに大きく変動する可能性がありますので、遺産分割協議をする際には注意が必要です。
なお、前述の通り、受取人が決まっている死亡保険金は、受取人の固有財産であり、原則として遺産分割協議の対象とはなりませんので、財産目録には記載しなくて良いでしょう。