動産の評価
動産とは、不動産以外の物のことです。
例えば、パソコンやテレビ等の家電、机や椅子等の家具、事業用の機械装置や器具備品、書画骨とう品や美術品、ペットや牛馬等の動物などが該当します。
相続税申告においては、不動産や金融資産だけでなく、財産的な価値のある動産も含めて相続税の計算を行う必要があります。
相続税申告における動産の評価は、財産評価基本通達において下記の通り定められています。
〇動産の相続税評価額
評価単位 | 評価方法 | ||
一般動産 | 原則 | 1個又は1組ごと | 売買実例価額、精通者意見価格等 |
例外 | 1個又は1組の価額が5万円以下のものは、一括評価 | 売買実例価額、精通者意見価格等が不明な場合は、小売価額から償却費又は減価の額を控除した金額 | |
たな卸 商品等 | 商品 | 種類や品質等がおおむね同一であるものごと | 販売価額から適正利潤額、予定経費額及び消費税額を控除した額 |
原材料 | 仕入価額に引き取り等に係る経費額を加算した額 | ||
半製品 仕掛品 | 仕入価額に引き取り及び加工等に係る経費額を加算した額 | ||
製品生産品 | 販売価額から適正利潤額、予定経費額及び消費税額を控除した額 | ||
牛馬等 | 販売用 | 種類や品質等がおおむね同一であるものごと | 販売価額から適正利潤額、予定経費額及び消費税額を控除した額 |
その他 | 1個又は1組ごと | 売買実例価額、精通者意見価格等 | |
書画骨とう品 | 販売業者所有 | 種類や品質等がおおむね同一であるものごと | 販売価額から適正利潤額、予定経費額及び消費税額を控除した額 |
その他 | 1個又は1組ごと | 売買実例価額、精通者意見価格等 | |
船舶 | 原則 | 1個又は1組ごと | 売買実例価額、精通者意見価格等 |
例外 | 売買実例価額、精通者意見価格等が不明な場合は、新造価額から償却費又は減価の額を控除した金額 |
1.動産とは、不動産以外のすべての物
民法第86条第1項において、土地及びその定着物は、不動産とする旨の定めがなされています。
また、民法第86条第2項において、不動産以外の物はすべて動産とする旨の定めがなされています。
すなわち、動産とは「土地及びその定着物以外の物」となります。定着物とは、建物や樹木等が該当します。
動産は財産評価基本通達において、一般動産、たな卸商品等、牛馬等、書画骨とう品、船舶に区分され、それぞれにおける評価方法が定められています。
〇動産の区分
物 (有体物) |
不動産 | 土地 |
土地の定着物(建物、樹木等) | ||
動産 | 一般動産 | |
たな卸商品等 | ||
牛馬等 | ||
書画骨とう品 | ||
船舶 |
2.一般動産
一般動産については、家庭用財産(例えば家具・車両)や事業用財産(例えば器具備品・機械装置)など様々なものがありますが、原則として1個又は1組ごとに、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価します。例えばカップとソーサーのように複数の物を合わせることで利用価値がある物は1組ごとに評価されます。
ただし、家庭用動産、農耕用動産、旅館用動産等で1個又は1組の価額が5万円以下のものについては、それぞれ一括して一世帯、一農家、一旅館等ごとに評価することができます。
売買実例価額とは市場で実際に取引されている価額のことで、精通者意見価格とは専門家による鑑定結果により算定される価格のことです。売買実例価額や精通者意見価格等が明らかでない一般動産については、その一般動産と同種及び同規格の新品の相続発生時における小売価額から、その一般動産の製造時から相続発生時までの期間に応ずる償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額によって評価します。
なお、償却費の額又は減価の額は、課税時期の属する年の1月1日における耐用年数省令に規定する耐用年数等に基づき定率法によって計算した金額とします。また、製造時から相続発生時までの期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とします。
〇一般動産の評価額
区分 | 評価方法 |
原則 | 売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価 |
例外 | 小売価額-(償却費の額の合計額又は減価の額) |
【例】
評価対象:一般動産(新車の自家用車)
売買実例価額等:不明
小売価額:100万円
耐用年数:6年
定率法の償却率:0.333
相続発生時までの期間:9ヶ月(1年未満のため、1年)
償却費の額の合計額 | 100万円×0.333=333,000円 |
評価額 | 100万円-333,000円=667,000円 |
3.たな卸商品等
たな卸商品等とは、商品、原材料、半製品、仕掛品、製品、生産品その他これらに準ずる動産のことです。たな卸商品等の価額は、原則として商品、原材料、半製品及び仕掛品、製品及び生産品の区分に従って、それぞれの区分に掲げる動産のうち種類及び品質等がおおむね同一のものごとに評価します。
(1)商品
商品については、相続発生時における販売価額から、次の金額の合計額を控除した金額によって評価します。
・販売業者に含まれる適正利潤の額
・相続発生後販売までに負担すると認められる経費の額(予定経費額)
・その商品についての消費税及び地方消費税の額
(2)原材料
原材料については、次の合計額によって評価します。
・相続発生時にその原材料を購入する場合の仕入価額
・その原材料の引取り等に要する運賃その他の経費の額
(3)半製品及び仕掛品
半製品とは、製造工程の途中にある製品のうち、それ自体を販売することが可能であるもののことです。仕掛品とは、製造工程の途中にある製品のうち、それ自体を販売することが見込めないもののことです。原材料を少しでも加工しているものは仕掛品に該当します。
半製品及び仕掛品については、次の合計額によって評価します。
・相続発生時にその半製品又は仕掛品の原材料を購入する場合の仕入価額
・その原材料の引取り等に要する運賃の額
・加工費その他の経費の額
(4)製品及び生産品
製品とは、原材料を加工した後の完成品のことです。生産品とは、出荷できる状態にある農水産物のことです。
製品及び生産品については、相続発生時における販売価額から、次の金額の合計額を控除した金額によって評価します。
・販売業者に含まれる適正利潤の額
・相続発生後販売までに負担すると認められる経費の額(予定経費の額)
・その商品についての消費税及び地方消費税の額
〇たな卸商品等の評価額
区分 | 評価方法 |
商品 | 販売価額-適正利潤額-予定経費額-消費税額 |
原材料 | 仕入価額+引き取り等の経費額 |
半製品及び仕掛品 | 原材料の仕入価額+引き取り等の経費額+加工費等の経費額 |
製品及び生産品 | 販売価額-適正利潤額-予定経費額-消費税額 |
ただし、個々の価額を算定し難いたな卸商品等の評価は、所得税法又は法人税法に定める方法のうち、その企業が所得の金額の計算上選定している方法によることができます。
4.牛馬等
牛馬等とは、牛・馬・豚・山羊・綿羊等の家畜、鶏・あひる等の家きん、鯉・鰻・ます等の養魚等のことです。
牛馬等については、次の区分により、それぞれ評価します。
(1)牛馬等の販売業者が販売目的で所有していたもの
たな卸商品等と同様に評価します。
すなわち、相続発生時における販売価額から、次の金額の合計額を控除した金額によって評価することとなります。
・販売業者に含まれる適正利潤の額
・相続発生後販売までに負担すると認められる経費の額(予定経費額)
・その商品についての消費税及び地方消費税の額
(2)上記(1)以外のもの
販売目的以外のものについては、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価します。
〇牛馬等の評価額
区分 | 評価方法 |
販売目的 | 販売価額-適正利潤額-予定経費額-消費税額 |
それ以外 | 売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価 |
5.書画骨とう品
書画骨とう品については、次の①~②の区分により、それぞれ評価します。
(1)書画骨とう品の販売業者が所有していたもの
たな卸商品等と同様に評価します。
すなわち、相続発生時における販売価額から、次の金額の合計額を控除した金額によって評価することとなります。
・販売業者に含まれる適正利潤の額
・相続発生後販売までに負担すると認められる経費の額(予定経費額)
・その商品についての消費税及び地方消費税の額
(2)上記(1)以外のもの
販売業者が所有していたもの以外のものについては、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価します。
なお、骨とう品としての一定の価値が認められず低額である場合は、一般動産に準じて評価を行います。その場合は、家庭用財産として一括評価で申告することが一般的です。
〇書画骨とう品の評価額
区分 | 評価方法 |
販売業者所有 | 販売価額-適正利潤額-予定経費額-消費税額 |
それ以外 | 売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価 |
6.船舶
船舶については、原則として売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価します。
ただし、売買実例価額、精通者意見価格等が明らかでない船舶については、その船舶と同種同型の船舶を相続発生時において新造する場合の価額から、その船舶の建造の時から相続発生時までの期間に応ずる償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額によって評価します。
なお、償却費の額又は減価の額は、課税時期の属する年の1月1日における耐用年数省令に規定する耐用年数等に基づき定率法によって計算した金額とします。また、製造時から相続発生時までの期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とします。
〇船舶の評価額
区分 | 評価方法 |
原則 | 売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価 |
例外 | 新造価額-(償却費の額の合計額又は減価の額) |
7.動産であっても相続税が課税されない場合がある
動産であっても、仏壇、仏具等の祭祀財産については相続税が課税されません。ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは、相続税が課税されます。
また、相続財産を相続税の申告期限までに国、地方公共団体又は特定の公益法人等に寄付をして一定の要件を満たした場合は、相続税が課税されない特例があります。相続財産が歴史的な価値のある美術品や骨とう品等である場合は、国等に寄付をすることにより相続税の負担を軽減することができます。
なお、相続財産が特定美術品である場合は、「特定の美術品についての相続税の納税猶予及び免除」という特例を適用できる可能性があります。この特例を適用するためには、被相続人が生前に寄託先美術館の設置者と特定美術品の寄託契約を締結し、重要文化財保存活用計画等につき文化庁長官の認定を受けている等の一定の要件を満たす必要があります。この特例を適用すると、相続税額のうち特定美術品の課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予され、寄託相続人の死亡等の場合は猶予税額が免除されます。
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本コラムで取り挙げた題材はあくまで一例であり、動産の状況も様々であるため、評価をする場合は専門的な知識や慎重な判断が求められます。
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