小規模宅地等の評価減(手続き)の規定について
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)や故人と生活を共にする家族(同一生計親族)の事業用や居住用の宅地等について、一定の要件を満たした場合にその宅地等の評価額を減額することができるという規定です。
ここでは、小規模宅地等の特例の適用を受けるための手続きについて説明いたします。特例の適用を受けるためには、主として次の手続が必要です。
1.遺産分割協議を成立させ、特例対象宅地等の取得者を決めること。
2.相続税の申告書に一定事項を記載し、明細書を添付すること。
〇小規模宅地等の特例の手続き
1.遺産分割協議を成立させ、特例対象宅地等の取得者を決めること。
この特例は、相続税の申告書の提出期限(以下「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない特例対象宅地等については、適用しないこととされています。
したがって、この特例の適用を受けるためには、大前提として遺産分割協議を成立させ、相続又は遺贈により特例対象宅地等の取得者を決める必要があります。
(1)申告期限までに分割されていない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する。
申告期限までに分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内に分割された場合は、その分割された特例対象宅地等につき、この特例の適用を受けることができます。
なお、申告期限後にこの特例の適用を受けるためには、申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して相続税の申告書を納税地の所轄税務署長へあらかじめ提出しておき、特例対象宅地等の分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求手続をする必要があります。
〇申告期限から3年以内に分割された場合
(2)申告期限から3年以内に分割されない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する。
相続人間での協議による遺産分割がまとまらずに裁判となった等の理由から、申告期限後3年以内にその特例対象宅地等が分割されない場合があります。そのようなやむを得ない事由がある場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を3年経過日の翌日から2ヶ月以内に納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。その承認申請書につき承認を受けた場合は、その特例対象宅地等の分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求手続をすることで、特例の適用を受けることが可能となります。
〇やむを得ない事由により、申告期限から3年以内に分割されない場合
(3)やむを得ない事由がある旨の承認申請書の提出時は、一定の書類を添付する。
承認申請書を提出する際には、やむを得ない事由に応じて下記の書類を添付する必要があります。
① 相続又は遺贈に関し訴えの提起がなされていることを証する書類
② 相続又は遺贈に関し和解、調停又は審判の申立てがされていることを証する書類
③ 相続又は遺贈に関し遺産分割の禁止、相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されていることを証する書類
④ ①から③までの書類以外の書類で財産の分割がされなかった場合におけるその事情の明細を記載した書類
承認申請書の提出があった場合、税務署長は申請者に対し、承認又は却下の処分を書面により通知します。なお、承認申請書の提出があった日の翌日から2月を経過する日までに、税務署長からその申請につき承認又は却下の処分の通知がなかったときは、その日においてその承認があったものとみなされます。
また、遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請に対する却下の処分の通知を受けた場合には、その通知を受けた日の翌日から起算して3ヶ月以内にその通知をした税務署長に対して再調査の請求又は国税不服審判所長に対して審査請求をすることができます。
2.相続税の申告書に一定事項を記載し、明細書を添付すること。
小規模宅地等の特例は、この特例を受けようとする者の相続税の申告書に、この特例の適用を受けようとする旨を記載し、この特例による計算に関する明細書その他一定の書類の添付がある場合に限り、適用することとされています。
申告書の記載漏れや明細書・各種必要書類の添付漏れによってこの特例の適用が受けられなくなってしまうこともあるため、注意が必要です。
(1)小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(第11・11の2表の付表1)
①特例の適用にあたっては、相続人等の全員の同意が必要
小規模宅地等の特例を適用するためには、特例の対象となる土地を取得した相続人等の全員の同意が必要です。同意を得たことの証明として、当該相続人等の全員の氏名を記入します。
特例を適用しない場合であっても、特例の対象となる土地を取得した相続人等がいるときは、その相続人等からも同意を得て氏名を記入しなければなりません。もし当該相続人等の全員の同意が得られない場合は、小規模宅地等の特例を適用することができません。
なお、小規模宅地等の特例の適用にあたっては、宅地等の評価額の減額金額だけではなく、納税の負担額も考慮したうえで決める必要があります。
例えば配偶者及び長男が取得した宅地等がどちらも小規模宅地等の特例の適用が可能な場合は、配偶者が限度面積まで特例を適用することで評価額の減額金額が最も大きくなるとしても、配偶者控除の適用を考慮すると、長男が限度面積まで特例を適用する方が納税額を最小にできるため有利となる場合があります。
また、例えば長男及び次男が取得した宅地等につき、どちらも小規模宅地等の特例の適用が可能な場合は、相続税の総額だけでなく、個々人の納税額を考慮して決める必要があります。長男が限度面積まで特例を適用することで相続税の総額が最小になるとしても、次男が負担する相続税額だけで考えると、次男が限度面積まで特例を適用する方が有利となる場合があるため、相続人間での公平性に欠ける可能性があります。
小規模宅地等の特例については、下記の通り限度面積が定められています。最初に適正な申告をした場合は、特例の適用対象地の変更による更正の請求等は原則として認められていません。相続人間でのトラブルや税務署から相続人全員の同意を得られていないことを理由に特例の適用を否認されることを避けるためにも、特例の適用対象地及び選択は、事前にしっかりと確認の上、慎重に決める必要があります。
〇減額される割合等
〇適用対象地が複数ある場合の限度面積
②小規模宅地等の明細に、必要事項を記入
小規模宅地等の特例を適用する宅地等について、その明細を記入します。
記入する項目として、小規模宅地等の種類、特例の適用を受ける取得者の氏名、所在地番、取得者の持分に応ずる宅地等の面積、取得者の持分に応ずる宅地等の価額、小規模宅地等の面積、小規模宅地等の価額、課税価格の計算にあたって減額される金額、課税価格に算入する価額等があります。
また、特例の適用を受ける土地が複数ある場合は、特例を適用するそれぞれの宅地等の面積の合計を記入します。
(2)その他一定の書類を添付する必要がある。
小規模宅地等の特例を適用するためには、一定の書類を添付する必要があります。
特例を適用する人や宅地等の種類により、必要な書類がそれぞれ異なります。
①すべてに共通して必要な書類は、相続人情報及び遺産の分割内容が分かるもの
相続開始の日から10日を経過した日以後に作成された被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本又は図形式の法定相続情報一覧図の写し、遺言書又は遺産分割協議書の写し、遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書、申告期限内に遺産分割ができない場合は申告期限後3年以内の分割見込書等の書類が必要となります。
②特定居住用宅地等に適用する場合に必要な書類は、取得者に関する情報
配偶者が適用を受ける場合は、特に書類の提出は不要です。
同居親族が適用を受ける場合は、特例の適用を受ける宅地等を自己の居住の用に供していることを明らかにする書類が必要です。なお、特例の適用を受ける人がマイナンバーを有する場合には提出不要です。
生計一親族が自己の居住の用に供されていた宅地等に適用を受ける場合は、同居親族と同様です。
別居親族(家なき子)が適用を受ける場合は、相続開始前3年以内における住所又は居所を明らかにする書類及び相続開始前3年以内に居住していた家屋が自己又は自己の配偶者の所有する家屋以外の家屋である旨を証明する書類が必要です。
ただし、平成30年4月1日以後の相続については、相続開始前3年以内に居住していた家屋が、自己、自己の配偶者、三親等内の親族又は特別の関係がある一定の法人の所有する家屋以外の家屋である旨を証する書類及び相続開始の時において自己の居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないことを証する書類が必要となります。具体的には、土地の登記簿謄本や賃貸借契約書の写し等が該当します。
被相続人が養護老人ホームに入所していた場合は、被相続人が要介護認定を受けていたこと等を明らかにする書類及び当該養護老人ホームが一定のものに該当することを明らかにする書類が必要です。具体的には、被相続人の戸籍の附票の写し、介護保険の被保険者証の写し、施設への入所時における契約書の写し等が該当します。
③特定事業用宅地等に適用する場合に必要な書類は、原則として相続開始前3年以内の事業のとき
特例の適用を受ける特定事業用宅地等が、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等である場合には、その宅地等の上で事業のように供されている償却資産の金額の合計額がその宅地等の相続時の価額の15%以上であることを証明する書類が必要となります。
また、一定の郵便局舎の敷地の用に供されている宅地等である場合には、総務大臣が交付した証明書が必要となります。
④特定同族会社事業用宅地等に適用する場合に必要な書類は、法人に関する情報
特例の対象となる法人の定款の写し、特例の対象となる法人の相続開始の直前における発行済株式の総数を記載した書類、被相続人及び被相続人と特別の関係がある者が有するその法人の株式の総数を記載した書類が必要となります。
⑤貸付事業用宅地等に適用する場合に必要な書類は、原則として相続開始前3年以内の貸付事業のとき
貸付事業用宅地等の場合は、特別に必要な添付書類はありません。
ただし、平成30年4月1日以降の相続で取得した宅地等の場合で、その宅地等が相続開始前3年以内に新たに被相続人の特定貸付事業に利用されているものであるときは、被相続人が相続開始の日までに3年を超えて特定貸付事業を行っていたことを明らかにする書類が必要となります。具体的には、確定申告書の写しや賃貸借契約書の写し等が該当します。
〇小規模宅地等の特例を適用する場合の添付書類
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本コラムで取り挙げた題材はあくまで一例であり、人それぞれ、宅地等の状況も様々で、適用可否の判断には難解な部分も多くあります。
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