みなし相続財産・みなし遺贈財産とは
相続税が課税される財産には、遺産分割協議や遺言に基づいて取得した預貯金や不動産等の遺産(本来の相続財産)の他、遺産ではないものの、相続・遺贈によって取得したものとみなされる財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産)が含まれます。
みなし相続財産・みなし遺贈財産としては、下記1~9が挙げられます。
1. 生命保険金等
被相続人の死亡により支払われた生命保険契約の保険金(共済金を含む。以下同じ。)または損害保険契約の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。以下、生命保険契約の保険金とあわせ、「生命保険金等」。)のうち、次の算式により計算した部分の金額については、その生命保険金等の受取人がその金額を被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
【算式】
いわゆる死亡保険金がこのみなし相続財産・みなし遺贈財産に該当する代表的なもので、死亡保険金とともに支払われる剰余金等(例えば、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金及び払戻しを受ける前納保険料の額)もこれに含まれます。
生命保険金等は遺産分割協議の対象とはならず、保険契約に基づき保険金を受け取る権利を有する者(保険契約上の保険金受取人)をその取得者として、生命保険金等に関する相続税の課税関係が決められます。
なお、相当な理由なく保険契約上の保険金受取人以外の者が生命保険金等を取得した場合には、保険契約上の保険金受取人が現実に生命保険金等を取得した者に対してその生命保険金等を贈与したものとして取り扱われますが、保険契約上の保険金受取人以外の者が現実に生命保険金等を取得している場合において、保険金受取人の変更手続がなされていなかったことにつきやむを得ない事情があると認められる場合(※)など、現実に生命保険金等を取得した者がその生命保険金等を取得することについて相当な理由があると認められるときは、その取得者を保険金受取人として、相続・遺贈により生命保険金等を取得したものとみなされることとなります。
※例えば、遺言により全財産を配偶者に相続させることとしていた方が亡くなった場合において、結婚前に加入していた生命保険契約に基づく保険金受取人を配偶者に変更し忘れていたところ、その配偶者が生命保険金等を取得した場合。
2. 退職手当金等
被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職手当金等で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものが支払われた場合には、その退職手当金等の受給者がその退職手当金等を被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
いわゆる死亡退職金が、このみなし相続財産・みなし遺贈財産に該当します。
3. 生命保険契約に関する権利
相続開始の時において、まだ保険事故が発生していない生命保険契約(掛捨てのものを除く。)で被相続人が保険料の全部または一部を負担し、かつ、被相続人以外の者がその生命保険契約の契約者となっているものがある場合においては、その契約者が、その契約に関する権利の価額のうち次の算式により計算した金額を被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
【算式】
例えば、被相続人が自身以外の者のために保険料を負担していた生命保険契約(被保険者・契約者ともに被相続人ではないもの)が、このみなし相続財産・みなし遺贈財産に該当します。
なお、生命保険契約に関する権利の価額の評価方法については、「生命保険契約に関する権利の評価」をご覧ください。
4. 定期金給付契約に関する権利
相続開始の時において、まだ定期金給付事由が発生していない定期金給付契約(生命保険契約を除く。)で被相続人が掛金または保険料の全部または一部を負担し、かつ、被相続人以外の者がその定期金給付契約の契約者となっているものがある場合においては、その契約者が、その契約に関する権利の価額のうち次の算式により計算した金額を被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
【算式】
例えば、被相続人が自身以外の者のために掛金・保険料を負担していた個人年金保険契約(契約者が被相続人ではないもの)で、相続開始時点においてまだ年金支給開始時期が到来していないものがこれに該当します。
5. 保証期間付定期金に関する権利
定期金給付契約で定期金受取人に対しその生存中または一定期間にわたり定期金を給付し、かつ、その受取人が死亡したときはその死亡後遺族等に対して定期金または一時金を給付するものに基づいて、その受取人だった被相続人の死亡後その遺族等がその定期金の継続受取人となった場合においては、その継続受取人となった者が、その定期金給付契約に関する権利の価額のうち次の算式により計算した金額を被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
【算式】
例えば、被相続人が生前既に受給を開始していた個人年金契約に基づく継続受給権がこれに該当します。
6. 契約に基づかない定期金に関する権利
被相続人の死亡により相続人その他の者が定期金(これに係る一時金を含む。)に関する権利で契約に基づくもの以外のものを取得した場合においては、その権利を取得した者が、その定期金に関する権利を被相続人から相続または遺贈により取得したものとみなされます。
例えば、被相続人が既に受給を開始していた退職年金契約に基づく継続受給権がこれに該当します。
7. 特別縁故者が取得した財産
民法第958条の3第1項(特別縁故者に対する相続財産の分与)の規定により、特別縁故者(※)が相続財産の全部または一部を与えられた場合においては、その特別縁故者が、その与えられた時におけるその財産の時価に相当する金額を被相続人から遺贈によって取得したものとみなされます。
※特別縁故者とは、相続人ではないものの、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者で、一定の手続を経て家庭裁判所により相続財産を取得することが認められたものをいいます。
8. 低額譲受による利益
遺言に基づいて著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、その財産の譲渡を受けた者が、その対価とその譲渡の時における財産の時価との差額に相当する金額(そのうち一定の金額(※)を除く。)を遺言者から遺贈により取得したものとみなされます。
※一定の金額とは、例えば親が(自己資金では借金を到底返済できない)子の援助をするために遺言に基づいて高価な財産を安く譲ってあげた場合における、子自身のお金では返済しきれない借金相当額などのことで、この金額については、著しく低い価額の対価で財産を譲り受けたことによる利益相当額(対価と時価の差額)として取り扱われません。
例えば、負担付遺贈により土地の譲渡を受けた場合における、その土地の時価と負担額との差額が低額譲受による利益に該当します。
9. 債務免除等による利益
遺言に基づき対価を支払わないで、または著しく低い価額の対価で債務の免除、引受けまたは第三者のためにする債務の弁済(以下、「債務免除等」)による利益を受けた場合においては、その債務免除等によって利益を受けた者が、その債務免除等に係る債務の額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その対価の額を控除した金額とし、そのうち一定の金額(※)を除く。)を遺言者から遺贈により取得したものとみなされます。
※一定の金額とは、例えば親が(自己資金では到底借金を返済できない)子の援助をするために遺言に基づいて遺産を子の借金返済に充てた場合における、子自身のお金では返済しきれない借金相当額などのことで、この金額については、代わりに借金を返済してもらったことによる利益相当額として取り扱われません。
上記の他にも、遺言に基づいて享受した利益がある場合には、その利益の額に相当する金額が遺贈によって取得したものとみなされます。